2024.12.15

出生前診断

アンジェルマン症候群とは?症状や治療法、割合について

アンジェルマン症候群とは?症状や治療法、割合について

染色体の異常による先天性疾患にはさまざまな病気がありますが、その中の1つにアンジェルマン症候群があります。アンジェルマン症候群は、ごくまれに起こる先天異常ですが、どのような病気なのか気になっている人もいるのではないでしょうか?

この記事では、アンジェルマン症候群の症状や原因、治療法について解説します。すでに自分の子どもがアンジェルマン症候群と診断された方も参考にしてみてください。

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アンジェルマン症候群とは

アンジェルマン症候群は、精神的な発達の遅れとてんかんを主な症状とする先天性疾患です。英国のアンジェルマン医師によって説明されたことから、この病名が付けられました。

アンジェルマン症候群の子どもは体の動きがスムーズではなく、特に理由がないのに笑う特徴があります。

アンジェルマン症候群は、生まれてきた赤ちゃんの15,000人に1人の割合でみられ、日本では指定難病になっています。

アンジェルマン症候群になる原因は染色体異常によるものです。とはいえ、高齢出産等が原因というわけではなく、どの夫婦の赤ちゃんでも生まれてくる可能性があります。以降では、アンジェルマン症候群の症状や原因、治療法について順にみていきます。

アンジェルマン症候群の症状

アンジェルマン症候群の症状

アンジェルマン症候群の赤ちゃんは症状の見分けが難しく、すぐに気づかれないことがほとんどです。アンジェルマン症候群の具体的な症状は以下になります。

身体的な症状や特徴

  • てんかんによるけいれん発作
  • 小頭症
  • 筋肉の緊張が低下し、関節がスムーズに動かない

また、染色体欠失によるアンジェルマン症候群は、以下のような身体的な特徴がみられます。

  • 肌が白い
  • あごが出ており、舌も出ている
  • 後頭部が平たい
  • 睡眠障害

アンジェルマン症候群の子どもは、尖ったあごや大きな口など顔つきも特徴があります。

精神・知的に関する症状

アンジェルマン症候群では、精神発達の重度の遅れを中心にいくつかの症状がみられます。

  • 重度の発達障害
  • 意味のある言葉が出て来ない
  • 両手をたたくなど、落ち着きがない
  • 特に理由がないのに笑う
  • 水やビニールなどキラキラしたものを好む

いくつかの精神的な症状があるアンジェルマン症候群ですが、感受性が豊かで好奇心が強く、人との関わりを求めたりする傾向があります。また、観察力や洞察力に優れているなどの長所もみられます。

アンジェルマン症候群の子どもがよく笑うのはなぜ?

アンジェルマン症候群は容易に笑い衝動が起こります。アンジェルマン症候群にみられる笑い衝動は、本人の性格ではなく行動異常によるものです。

アンジェルマン症候群の原因には、「UBE3A」という遺伝子に異常があることが分かっています。UBE3Aは、新しい体験や経験により脳の神経伝達を活性化する「シナプス」の働きに関わりがあります。アンジェルマン症候群では、UBE3Aの機能が失われているため、脳の機能の維持や神経伝達に問題を起こしやすくなります。

アンジェルマン症候群になる原因

アンジェルマン症候群になる原因

アンジェルマン症候群は15番目の常染色体の一部の働きが失われることで起こります。染色体は染め方によって縞模様がみられ、染色体バンドと呼ばれています。

さらに詳しく説明すると、アンジェルマン症候群では15番染色体のうち、短い部分(短腕)にある染色体バンドにq11-q13にある「UBE3A」という遺伝子の機能に異常があることが分かっています。具体的にUBE3A遺伝子の働きが失われる原因とその割合は次のとおりです。

  • 15番染色体の母親由来の染色体バンドであるq11-q13の一部が欠けている(母性染色体微細欠失):70%
  • 15番染色体の染色体が両親の両方ではなく、父親のみから由来している(父性片親性ダイソミー):5%
  • 一部の遺伝子に現れる「ゲノム刷り込み」に変異が起きている:5%
    ※通常、人間をはじめとする哺乳類は両親由来の遺伝情報を受け継ぎますが、一部の遺伝子について片方の遺伝情報をのみを受け継ぐことを、「ゲノム刷り込み(ゲノムインプリンティング)」といいます。
  • UBE3 A遺伝子が変異している:10%
    アンジェルマン症候群の原因のうち、残りの10%は遺伝子の変化が特定できていません。

アンジェルマン症候群になる確率

アンジェルマン症候群は15,000人のうち1人の割合でみられ、男女差はありません。日本では、約500~1000人がアンジェルマン症候群と確認されています。

アンジェルマン症候群は母親から受け継がれた「UBE3A」という遺伝子の機能が失われている場合に起こります。一方で、アンジェルマン症候群を発症した人の90%は突然の遺伝子変異によってみられ、母親の遺伝によって病気を発症する人の割合は10%程度です。

アンジェルマン症候群は遺伝するのか?

アンジェルマン症候群が遺伝するかどうかは、「UBE3A」遺伝子の機能が失われた理由によって異なります。アンジェルマン症候群の原因のほとんどである母性染色体微細欠失と父性片親性ダイソミーですが、次世代に遺伝するものではありません。

一方、遺伝子刷り込みの変異のうち10%と、UBE3A遺伝子の変化のうち30%は遺伝するため、必要時に専門的なカウンセリングを受けることが推奨されています。

遺伝子の突然変異によるものであれば遺伝しない

アンジェルマン症候群の9割は、突発的な遺伝子変異によって起こります。そのため、どの夫婦にもアンジェルマン症候群の子どもが生まれる可能性があります。

ただ、遺伝子の突然変異によりアンジェルマン症候群を発症した場合は、兄弟がアンジェルマン症候群にも遺伝することはほとんどありません。アンジェルマン症候群の残りの1割は遺伝的な体質が受け継がれたものです。そのため、アンジェルマン症候群の子どもの兄弟が同じ病気を発症することがあります。

アンジェルマン症候群の治療法

アンジェルマン症候群の治療法

アンジェルマン症候群は、染色体の異常によって起こる疾患であるため、病気を根本的に治療する方法はありません。治療では、症状を改善するための対症療法が行われます。アンジェルマン症候群で行われる対症療法には以下のものがあります。

  • てんかんの治療
    抗てんかん薬を用いて、発作が起きないように薬でコントロールします。風邪を引いた際や薬の飲み忘れた際は、てんかん発作が起こりやすくなるので注意しましょう。
  • 睡眠障害
    睡眠リズムを整えるために薬物療法が行われます。
  • 運動障害や言語障害
    療育など専門機関でリハビリテーションを受けながら、子どもの発達をサポートします。

現時点では対症療法のみが行われているアンジェルマン症候群ですが、機能を失ったUBE3A遺伝子を再活性化させるための方法も研究されています。

薬物治療により治療の可能性はある?

これまでアンジェルマン症候群による脳の機能障害が起こる仕組みは明らかになっていませんでした。近年では、アンジェルマン症候群では、GABAという神経伝達物質が関わる働きがみられないことも明らかになっています。

UBE3A遺伝子の機能が失われることにより、脳の神経細胞であるシナプスの働きに問題があれば、根本的な治療の確率は難しくなります。しかし、アンジェルマン症候群が、GABAの働きの異常によるものであれば、将来的に治療薬が開発される可能性があります。

アンジェルマン症候群の方の寿命

アンジェル症候群を持つ人は、健康な人と近いといわれています。アンジェルマン症候群の9割の人にみられるてんかん発作は、成長とともに症状が軽くなっていくケースがほとんどです。

アンジェルマン症候群では、嘔吐や便秘など消化器の問題、側弯など整形外科の問題を抱えやすくなりますが、その他の健康については健康な人と同じ程度になります。

アンジェルマン症候群の経過や予後

アンジェルマン症候群の子どもは、発達に遅れがみられます。意味のある発語ができるようになるのはまれですが、理解力の発達は比較的良好です。行動面では、ちょっとしたことで笑うことが知られていますが、その他、強い好奇心や落ち着きのなさがみられます。

乳児や幼児では睡眠障害がよくみられ、寝つきの悪さや夜間の中途覚醒、早朝の覚醒などにご家族が悩むこともあるでしょう。睡眠障害については、睡眠剤を使用することもあります。アンジェルマン症候群の子どもは、

5歳くらいで自分で歩けるようになります。言葉の理解も少しずつ得られますが、言葉を発するのが難しいケースがほとんどです。

日常生活に必要な活動の介護が必要になることが多く、アンジェルマン症候群の子どもは小さいうちから療育に通う必要があります。アンジェルマン症候群はまれな先天性疾患であるため、教育現場でも事例が少ないかもしれません。自分の子どもが施設内で適切な支援を受けるには、教育者や先輩ママとの情報共有などコミュニケーションを密に取ることが大切です。

成人後の経過

アンジェルマン症候群の子どもは大人になると、あまり活発に動かなくなります。運動量が低下して肥満になりやすくなるため、定期的な運動に取り組まなければなりません。

また成人した後は、一人で完全に自立することは難しいとされています。成人後は自宅で家族の協力を得ながら生活したり、支援施設のような自宅に近い環境で暮らしたりするなど、地域の社会的な資源を活用していくことになります。

アンジェルマン症候群はいつわかる?

アンジェルマン症候群の赤ちゃんは、生まれてすぐに診断を受けることはほぼありません。

妊娠中や出生直後は、赤ちゃんに奇形などの異常がみられず、主な症状である発達障害は、新生児や乳児の時期には、はっきりしていないためです。

アンジェルマン症候群の診断が多くなる年齢は、3歳から7歳くらいになります。しかし生後半年から1年くらいに、発達の遅れがみられるため、両親が何らかの異常に気付き、医療機関へ受診するきっかけになることもあるでしょう。

また、アンジェルマン症候群の子どもは、発語障害などもみられますが、精密検査で脳の異常がみられないことがほとんどです。病気が疑われている場合、遺伝子検査が行われます。

アンジェルマン症候群を診断するための検査

子どもにアンジェルマン症候群が疑われる場合は、遺伝子検査によって「UBE3A」遺伝子に機能不全がないかどうかを調べます。遺伝子検査では、どのような理由でUBE3Aが失われている理由についても知ることもできます。アンジェルマン症候群で行われる遺伝子検査は次のとおりです。

遺伝子検査名検査の特徴
FISH法ターゲットとなる遺伝子部位と相補的な合成の遺伝子に蛍光物質をつけ、特殊な顕微鏡で確認する検査。アンジェルマン症候群の原因の7割を占める「欠失」を調べるために行われる(※保険適用)。
DNAメチル化テストDNAの特定の場所に「メチル基」という化学的なマークを付け加え、遺伝子の活性を調べる検査。15番染色体のq11-q13領域の親由来のパターンを調べる。通常、FISH法で欠失がみられなかったときに行われる。
DNA多型解析DNAの塩基配列から個体差を調べる検査。両親のDNAの塩基配列から、片親性ダイソミーか刷り込み変異かを調べるために実施される。通常、メチル化テストで異常なパターンがみられたときに行われる。
UBE3A変異解析DNAの配列に異常が生じていないかを調べるための検査。アンジェルマン症候群では、UBE3A遺伝子の変異解析を行う。通常、メチル化テストで異常なパターンがみられないときに行われる。

上記のように、アンジェルマン症候群の遺伝子変異のタイプによっては、特定の検査だけでは、原因が分からないことがあります。

また遺伝子検査のなかには、アンジェルマン症候群の遺伝子変異が親由来かどうかを知ることができるものもあります。検査結果によっては、自分を責めてしまうご家族もいるかもしれません。遺伝子検査を受けたあとは、専門家による遺伝子カウンセリングを受けるようにしましょう。

遺伝子検査で分からないときは症状から診断することも

アンジェルマン症候群の一部では、遺伝子変異がはっきり確認できないことがあります。このような場合は、次の症状を踏まえて、診断が行われることもあります。

  • ささいなことでよく笑う
  • 協調的な歩き方ができない
  • 下あごが出ているなど特徴的な顔つきをしている
  • 精神発達の遅れがみられる

新型出生前診断(NIPT)について

新型出生前診断(NIPT)について

妊婦さんに行われる新型出生前診断(NIPT)の中には、アンジェルマン症候群の可能性を知ることができるケースがあります。新型出生前診断(NIPT)は大きく分けて、日本医学会の認定を受けている認可施設で行われるNIPTと、認定を受けていない認可外施設で行われるNIPTがあります。

新型出生前診断(NIPT)は採血で行われるため、検査そのものに違いはありませんが、検査条件や検査項目などに違いがあります。それぞれの新型出生前診断(NIPT)の主な特徴には以下のものがあります。

≪認可施設の新型出生前診断(NIPT)≫

≪認可外の新型出生前診断(NIPT)の特徴≫

  • すべての染色体を調べられる
  • 年齢制限がない
  • 遺伝カウンセリングは必須ではない

いずれの施設での新型出生前診断(NIPT)も、染色体疾患の可能性を調べるために行われております。検査で特定の疾患が陽性になった場合は、診断を受けるには確定検査を受ける必要があります。

アンジェルマン症候群の可能性については、海外や認可外施設での新型出生前診断(NIPT)で調べることができます。

DNA先端医療株式会社のNIPTは、アンジェルマン症候群の検査ができます。万が一陽性反応が出た場合も、遺伝カウンセリングが受けられますので安心して受けられる施設として選択されるのもよいでしょう。

アンジェルマン症候群の検査はコチラ

まとめ

アンジェルマン症候群は、てんかんや発達障害などの症状がみられる染色体異常です。現時点では、アンジェルマン症候群の治療は、症状に対する治療が中心となります。アンジェルマン症候群の子どもは、さまざまなサポートが必要になるため、家族で遺伝カウンセリングを受けることが大切です。

参考
アンジェルマン症候群(指定難病201)
Angelman症候群―ゲノム刷り込み疾患の診断と治療-

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原明子
国立大学で看護学を学び資格を取得し、卒業後は都内の総合病院に勤務。 海外医療ボランティアの経験もあり。 現在は結婚・子育てのため、医療や健康分野を中心にライター・編集者として活動中。 学歴:2005年 国立大学看護学部卒業。取得資格:看護師、保健師。

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