2022.05.25

妊娠

神経管閉鎖障害とは?症状や原因について解説

神経管閉鎖障害とは?症状や原因について解説

「神経管閉鎖障害」という障害をご存知でしょうか?神経管閉鎖障害という単語だけ聞くと、難しいと感じたり、初めて耳にする方も多いかと思いますが、実は妊娠を希望する方や妊娠中に良いとされる「葉酸」と深く関係がある障害です。

妊娠中は葉酸サプリメントがいいと耳にしたり、実際に摂取している方もいらっしゃるかと思います。そもそもなぜ、妊娠中には葉酸が良いとされているのでしょうか?また葉酸と神経管閉鎖障害との関係はあるのでしょうか?

今回の記事では、神経管閉鎖障害についての具体的な説明や原因、葉酸摂取との関係について解説します。妊娠中に葉酸を摂取する必要性や、神経管閉鎖障害についての症状や原因などの理解が少しでも深まりましたら幸いです。

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神経管閉鎖障害とは?

「神経管閉鎖障害」とは赤ちゃんの先天異常の一つで、妊娠4週目から12週目(妊娠初期)に発生します。妊娠初期は赤ちゃん(胎児)の細胞増殖が盛んな時期で、脳や脊髄などのもととなる多くの神経管が作られる時期です。この時期に神経管がうまく作られないことで、神経管閉鎖障害が発生します。

神経管閉鎖障害は、出生前診断で発覚することもあります。神経管閉鎖障害は胎児のときから、体に欠損がある場合があります。欠損をはじめとした異常がある場合、妊婦健康診査の一つである超音波検査(エコー検査)において神経管閉鎖障害と分かるケースもあります。

その他母体血清マーカー検査においても、神経管閉鎖障害を調べることができます。しかしながら、神経管閉鎖障害は下肢の異常などから脳の欠損まで症状が幅広く、出生前診断で神経管閉鎖障害が発覚したとしても、症状の重さや程度などまでを診断することは困難な場合が多いです。

神経管閉鎖障害以外の先天性の染色体異常である21トリソミー(ダウン症候群)や18トリソミー(エドワーズ症候群)が見つかった場合、心疾患などの合併症を持っている可能性が高くなります。

神経管閉鎖障害になるとどうなる?

神経管閉鎖障害になるとどのような影響があるのでしょうか?具体的な症状や病名を紹介します。

  1. 二分脊椎
    神経管閉鎖障害のなかで、最も多いのが二分脊椎です。脊髄馬尾神経が入っている背骨のトンネル(脊柱管)の一部の形成が不完全となり、脊髄馬尾神経が脊柱管の外に出てしまっています。

    神経の癒着や損傷が生じてしまい、様々な神経障害(運動や排泄の障害)が出現する可能性があります(※①)。

    神経管閉鎖障害の大部分は二分脊椎で、日本における二分脊椎の発症は年々増加傾向にあります。2007-2011年のデータによると、出生1万対5.59と(※②)、出生1万人に対して6人程度の発症率となっています。

    二分脊椎の治療方法として、運動や排泄の障害があった場合、継続的なリハビリを行うことで症状の維持、改善につとめます。

  2. 無脳症
    生まれつき脳の一部が欠損している状態です。脳幹や脊髄にも欠損や奇形がみられることもあります。大変心苦しいですが、生命を維持できないため死産、もしくは生後数日〜数週で死亡します。

神経管閉鎖障害の原因

神経管閉鎖障害の原因

神経管閉鎖障害はどうして発生するのでしょうか?その原因を説明します。

妊娠初期は神経管の形成期です。神経管閉鎖障害については様々な研究が行われており、妊娠初期に葉酸摂取が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが高まることが明らかになってきています(※③)。

日本では2000年に厚生労働省から葉酸摂取についての通知がありました。具体的には、妊娠の可能性がある女性が、通常の食事からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日400μgの葉酸を摂取することによって、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクを低減できる可能性についての通知です。

葉酸の摂取以外の原因としては、薬の内服や遺伝などもあるとされています。また糖尿病や肥満なども原因と考えられています。

神経管閉鎖障害のリスクを減らすためには葉酸摂取が効果的

神経管閉鎖障害のリスクを減らすためには葉酸摂取が効果的とお伝えしました。葉酸を摂取する時期や注意点などについて説明します。

葉酸とは

葉酸はビタミンB群の一種で、野菜や柑橘類、大豆やレバーなどに多く含まれています。葉酸はDNAや新しい細胞を作ったり、血液をつくる上で重要な役割を果たしており、妊娠中の摂取はもちろん、性別、年齢問わず全ての人にとって重要な栄養素です。

厚生労働省では1日の葉酸推奨量を、18歳以上では240μg/日、妊婦は400μg/日としています。この摂取量は、主に通常の食品から摂取する葉酸を対象として設定されています。

1日の葉酸推奨量を摂取するためには、葉酸を含む野菜や柑橘類、大豆などはもちろん、健康維持のためにバランスのよい食生活が大切です。

なお、神経管閉鎖障害のリスク低減のための葉酸の摂取時期はおよそ妊娠1か月以上前から妊娠3か月までとされています(※④)。特に神経管閉鎖障害の対策においては、「妊娠前」からの葉酸摂取が重要とされています。

「日本人の食事摂取基準」において、「妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400µg/日摂取することが望まれる」という文言が記載されています(※⑤)。

葉酸は水溶性ビタミンのため分解されやすいことから、意外にも一日の葉酸推奨量を摂取できていない場合があります。

特に妊娠初期においては、葉酸を含む食品の摂取や調理法を工夫(レンジ加熱をするなど)することはもちろん、サプリメントや栄養補助食品からの摂取も重要です。(サプリメントや栄養補助食品から摂取する場合の耐容上限量は約900μg/日とされています。摂取時は用法用量を守り、正しく摂取しましょう。)

神経管閉鎖障害のまとめ

神経管閉鎖障害のまとめ

今回の記事では、神経管閉鎖障害について、具体的な説明や原因、葉酸摂取との関係についてお話しました。

神経管閉鎖障害とは赤ちゃんの先天異常の一つで、妊娠4週目から12週目(妊娠初期)に発生します。妊娠初期に神経管がうまく作られないことで、神経管閉鎖障害が発生し、二分脊椎や無脳症などが多くを占めます。

神経管閉鎖障害のリスクを軽減させる行動の一つに、葉酸の摂取があります。葉酸はビタミンB群の一種で、野菜や柑橘類、大豆やレバーなどに多く含まれています。

妊娠前からの葉酸摂取が重要で、厚生労働省は、妊婦は400μg/日の葉酸摂取を呼びかけています。葉酸はDNAや新しい細胞を作ったり、血液をつくる上で重要な役割を果たしており、性別、年齢問わず全ての人にとって重要な栄養素です。

特に妊娠初期においては、葉酸を含む食品の摂取や調理法を工夫(レンジ加熱をするなど)することはもちろん、サプリメントや栄養補助食品からの摂取も重要です。

参考文献:
二分脊椎 日本脊髄外科学会
②lnternational Clearinghouse for Birth Defects Surveillance and Research,Annual Report. 2014.
葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果 eヘルスネット
④神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」平成12年.児母第72号・健医地生発第78号(通知)
⑤厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版),「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書,2019

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平野香菜子
内科、精神科にて看護業務に従事経験を持つ看護師・保健師のライター。2020年には、食事や運動をはじめとした生活習慣改善のための保健指導などを行う企業保健師としても活動中。 略歴:2016年 美容系専門学校講師、2017年 大学教員(助手)、2018年 看護師、2020年 企業保健師。取得資格:看護師、保健師。

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