2022.07.08

出生前診断

ダウン症の方がかかりやすい合併症とは?原因などを解説

ダウン症は先天性異常の1つで、筋肉の緊張度が低く、知的発達の遅れが多いとも言われています。その他心臓疾患や消化器疾患といった合併症も多く見られ、合併症に対しての治療が必要な場合があります。今回の記事では、ダウン症についてや、合併症と治療方法について詳しく紹介します。

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ダウン症とは?

ダウン症とは「ダウン症候群」の略で、先天性異常の1つです。

ダウン症は最初の報告者であるイギリス人のダウン医師の名前から命名されたと言われています。ダウン症は21番目の染色体が1本多いことが特徴であることから、「21トリソミー」とも呼ばれています。

ダウン症の原因

ダウン症の原因

ダウン症の原因の1つに細胞分裂の異常があり、生まれる割合は、600~800人に1人程度と言われています。ダウン症は一般的に、高齢出産のほうが生まれる割合が高いと言われており、20歳から24歳だと1,677人中1人、35歳だと378人中1人、40歳だと106人中1人程度というデータもあります。

ダウン症の合併症と治療法

ダウン症の合併症と治療法

ダウン症の場合、全員が併発症(合併症)になるわけではなく、なかには病気と縁のない方もいます。またダウン症のある人にはあまりみられない病気もあります(真性喘息、川崎病、新生児仮死による重い脳性麻痺、癌など※①)。

とはいえ、心臓疾患や消化器疾患といった合併症も多く見られることが特徴です。その他知的発達の遅れを伴うこともあります。ダウン症によくみられる合併症と治療法を紹介します。

先天性心疾患(心室中隔欠損症・心室中隔欠損症など)

ダウン症候群の小児の約半数では、出生時から心臓の異常がみられます。

①心室中隔欠損症:心臓には右心房・右心室、左心房・左心室という4つの部屋があります。心室中隔(右心室と左心室の間の壁)に穴が空いている疾患を心室中隔欠損症といいます。ダウン症をはじめ、染色体異常の合併症で多い疾患です。

心室中隔欠損症の治療方法:穴が小さい場合は、穴が成長とともに閉じる場合もあります。穴が大きい、重症の場合、穴を塞ぐ手術(心室中隔欠損孔閉鎖術)を行います。

②心房中隔欠損症:心房中隔(右心房と左心房の間の壁)に穴が空いている疾患を心房中隔欠損症といいます。通常、胎児のときは右心房と左心房の間に穴が空いています。

出産後にこの穴は自然に閉じるのですが、心室中隔欠損症の場合、穴が残っています。

心房中隔欠損症:小さい穴の場合は自然に閉じることもあります。直径8mm以上の穴の場合、自然に閉じるのは難しいため、薬の投与などによる治療、カテーテル治療や穴を閉じる手術(心房中隔欠損閉鎖術)を行います。

消化器疾患(十二指腸閉鎖や鎖肛など)

十二指腸閉鎖や鎖肛などの消化器疾患は、先天性心疾患と並んでよく見られる症状の1つです。

①十二指腸閉鎖:先天的な原因により胃液やミルクが十二指腸内を通過しない状態で、出生6,000人から10,000人に1人の割合でみられると言われています(※②)。

十二指腸閉鎖の治療方法:脱水や黄疸などの治療を行い、全身状態が安定していることを確認してから手術(膜切除術または十二指腸・十二指腸吻合術など)を行います。

②鎖肛:肛門がうまく作られておらず、排便できない疾患です。消化管の先天的異常の中で最も多い病気で、多くは産まれたときに診断されます。

鎖肛の治療方法:生後約1か月までの新生児期に手術が必要です。直腸末端の位置により低位型、中間位型、高位型の3グループに分けることが一般的で、中間位型と高位型では、新生児期に人工肛門造設術を行います(※③)

白血病など

ダウン症の場合白血病の発生リスクは高く、死因の1つでもあります。現在では医学の進歩により生存率は大きく向上しています。

白血病の治療方法:白血病は「急性」と「慢性」、「リンパ性」と「骨髄性」に分類され、ステロイド剤や抗がん剤などの治療を行います。

甲状腺疾患(甲状腺機能低下症など)

甲状腺機能低下症:のどぼとけの下にある蝶(チョウ)が羽を広げた形をした臓器が甲状腺で、甲状腺ホルモンを作っています。甲状腺ホルモンは身体の新陳代謝を盛んにするなどの役割がありますが、ダウン症の場合甲状腺機能の低下が見られることがあります。無気力や疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などの症状があります(※④)。

甲状腺機能低下症の治療方法:甲状腺ホルモンである薬剤の内服による治療を行います。

糖尿病

甲状腺機能低下症と並んで発症が多いのが糖尿病です。

糖尿病:糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病に分けられます。1型糖尿病は膵臓のインスリンを出す細胞(β細胞)からインスリンがほとんど出ず、糖尿病全体の約5%が1型糖尿病と言われています。何歳でも発症する可能性がありますが、若年で発症するケースが多いです。

2型糖尿病はインスリンが出にくい、効きにくいなどの状態で血糖値が高くなります。生活習慣や遺伝が原因とされています。ダウン症は肥満症が多く、食生活が偏る傾向があり、2型糖尿病にも注意が必要です。

糖尿病の治療方法:1型糖尿病の場合はインスリン注射を行います。2型糖尿病の場合は、必要によってはインスリンの注射、また運動療法や食事療法、内服で血糖値の改善を行います。

眼科系の疾患(屈折異常・斜視・白内障など)

①屈折異常:屈折異常には近視・遠視・乱視があり、網膜にピントがきっちり合わない状態をいいます。メガネやコンタクトを使用し対処します。

②斜視:右眼と左眼の視線が違う場所に向かっている状態で、わずかな斜位はほとんどの人に見られます(※⑤)。ダウン症は特に内斜視が多く、必要に応じて手術が必要です。

③白内障:水晶体が濁り、目が見えにくくなります。通常加齢とともになることがほとんどですが、先天性白内障もあります。ダウン症の場合、先天性白内障の割合は10〜25%高くなると報告されています(※⑥)。先天性の白内障はほとんど進行しないため、経過観察を行います。

耳鼻科の疾患(難聴・滲出性中耳炎など)

難聴は音が聞こえにくい、程度や症状によっては全く聞こえないなどの症状があります。39〜78%のダウン症に見られるというデータもあり、多くが滲出性中耳炎による伝音難

聴と言われています。

滲出性中耳炎は耳に滲出液が溜まって発症する中耳炎で、投薬やチューブ留置術などの治療方法を行います。ダウン症児は外耳道が非常に狭く、また処置に対する理解や協力が得られにくいことから、全身麻酔でのチューブ留置術を求められることも多いです(※⑦)。

精神・知的発達

ダウン症の小児のIQは50程度と言われています。また言語面や運動面に発達の遅れが見られることもあります。その他自閉症も多いと言われています。多動性障害やうつ病などの症状のリスクも高いです。

現在では、ダウン症に対する療育や教育をはじめとした社会的支援があります。その子の特徴や性格、症状や程度にあった療育や教育を早期から適切に受けることが重要です。

ダウン症のまとめ

ダウン症のまとめ

今回の記事では、ダウン症について、原因や合併症、治療方法などについて紹介しました。

ダウン症は全員が合併症を持っているわけではなく、なかにはほとんど合併症のない方もいるなど、症状や程度には個人差があります。

ダウン症で最も見られる合併症は心臓疾患や消化器疾患で、その他白血病や甲状腺疾患、眼科系や耳鼻科系といった合併症も多く見られることが特徴です。その他知的発達の遅れを伴うこともあります。

現在は医療の進歩により、合併症については様々な治療ができるようになっています。年齢やそのときの症状や程度に応じて、必要や検査を行い合併症の治療を行います。

参考文献:
①公益財団法人日本ダウン症協会 ダウン症のあるお子さんを授かったご家族へ
②獨協医科大学埼玉医療センター小児外科 十二指腸閉鎖・狭窄症
③一般社団法人日本小児外科学会 鎖肛(直腸肛門奇形)
④一般社団法人日本内分泌学会 甲状腺機能低下症
⑤日本弱視斜視学会 斜視
⑥天使病院 ダウン症の生涯を通しての健康管理について
⑦東京北医療センター耳鼻咽喉科/難聴・中耳手術センター 飯野ゆき子『ダウン症と耳鼻咽喉科疾患

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