2021.09.08
出生前診断
遺伝子の数や構造によって起こる病気には種類がありますが、女の子の赤ちゃんにみられる染色体異常にターナー症候群があります。身近で耳にする機会が少ないターナー症候群ですが、染色体異常の中でも比較的よくみられる疾患のひとつです。
この記事では、ターナー症候群の特徴や症状や原因、治療法について解説します。
ターナー症候群は、女の子の赤ちゃんの2500人に1人の割合でみられる染色体異常です。ターナー症候群で特徴的なのが、低身長や思春期の遅れがみられることです。また、心臓や腎臓、甲状腺などの異常を合併していることがあります。
ターナー症候群は、出生時の外見の特徴をきっかけに見つかることもありますが、子どもがある程度成長してから気づかれるケースもあります。ターナー症候群は遺伝子疾患によって起こるので、完治のための治療法はありませんが、症状によっては治療できるものもあります。
以降では、ターナー症候群についてさらに詳しくみていきます。
ターナー症候群が起こる原因は生まれつきの染色体異常性によって起こります。ターナー症候群の染色体の特徴を知る前に、まずは染色体の仕組みについてみていきましょう。
染色体は細胞の核に存在しており、遺伝子情報をのせたDNAが含まれています。人間の1つひとつの細胞には、染色体は23本の対になっており、計46本の染色体が存在しますが、大きさの順に番号がふられています。染色体には大きく分けて2種類あり、1~22番目の44本の染色体を常染色体、最後の23番目の染色体を性染色体といいます。
性染色体は赤ちゃんの性別を決定する染色体で、男性と女性で組み合わせが異なります。具体的には、男性はX染色体とY染色体を持つXYの組み合わせで、女性はX染色体が対になったXXの組み合わせになります。
ターナー症候群は、女性のX染色体が対の2本ではなく、1本になっていたり、一部が欠けていることで起こるため、モノソミーXと呼ばれています。モノソミーは、染色体が対の2本ではなく、1本である状態をいいます。
ターナー症候群は、X染色体の数の不足や構造の異常が原因で起こりますが、そのメカニズムについては明らかになっていません。染色体の異常というと、「高齢出産が原因なのでは…」とイメージする方もいるでしょう。
ターナー症候群は高齢出産との直接的な関連はありません。ただし、受精卵になる前の母親からの卵子や、父親からの精子が作られる段階で、細胞分裂に異常が起きている可能性が指摘されています。
ターナー症候群ではいくつかの身体的な特徴のほかに性的な成熟の遅れがみられます。ここでは、それぞれの特徴を順にみていきます。
ターナー症候群でみられる身体的な特徴には以下のものあります。
そのほかにも、ターナー症候群の子どもによっては、「大動脈狭窄症」など心臓の大動脈の一部が狭くなっている心臓の異常や、腎臓や甲状腺の病気を合併していたり、糖尿病や高血圧がみられやすい特徴もあります。
まれな例ですが、上まぶたが下がる眼瞼下垂や、首の後ろ低い位置に髪の毛の生え際がある、ほくろ、爪が育ちにくいなどの症状がみられることもあります。ターナー症候群の女の子は、家族よりも身長が低く、肥満であることが多くなります。
一般的に、ターナー症候群の女子は初経が訪れることなく、思春期にみられる乳房の変化もみられません。90%のターナー症候群では卵巣が結合組織となるため、卵子の発育がなく、将来の不妊症を引き起こします。
ターナー症候群で知的障害が起こることは、ほとんどありません。一方で、ターナー症候群の方の中には、ADHDや学習障害といった発達障害がみられることがあります。将来の妊娠などを除けば、健康な人とほとんど同じ生活を送ることが可能です。
ターナー症候群は染色体の数や異常によって起こる病気であるため、根本的に治療する方法はありません。一方で、ターナー症候群の一部の症状に対しては、対症療法を行うことができます。ターナー症候群の具体的な治療には、以下のものがあります。
ターナー症候群で心臓の異常がみられる場合は、手術によって治療をすることができます。そのほかの心臓の異常については、定期的に検査を受けながら、フォローしていきます。
ターナー症候群による低身長に対しては、成長ホルモンの投与を行うことで、身長を伸ばすことができます。成長ホルモン療法を受けたターナー症候群の成人女性の平均身長は145㎝以上です。
ターナー症候群の女子の二次性徴を起こさせるために、女性ホルモンのエストロゲンを投与します。一般的な思春期の訪れを考慮すれば、12~13歳頃に治療を行ったり、体の成長をみながら開始期間をずらしたりすることもあります。
治療により思春期の訪れがあれば、女性ホルモンであるプロゲステロンを含んだ経口避妊薬の服用をはじめます。エストロゲンには、骨の密度を高める作用もあるので、将来の骨粗しょう症の予防にも役立ちます。
ターナー症候群の子どもによっては、腎臓や甲状腺の異常など、そのほかの病気がみられることがあるため、医療機関で定期的に検査を受けることが大切です。
お腹の赤ちゃんがターナー症候群かどうかは、生まれてきたときの外見の特徴などから分かります。一方で、ターナー症候群の外見的な特徴が乏しいと、身長が伸びにくい・思春期が遅いといったことから、学童期にターナー症候群であることが発覚することもあります。
出産前に自分の赤ちゃんがターナー症候群かどうかを知る方法に、新型出生前診断(NIPT)があります。新型出生前診断(NIPT)は、妊婦さんに採血を行って、血液中に含まれる胎児の遺伝子のかけらを調べる検査です。
現在、国内では認可施設と、認可外施設の両方で、新型出生前検査(NIPT)を受けることが可能です。日本では倫理的な理由から、認可施設で分かるのは、ダウン症を含む3つの染色体異常ですが、認可外施設の検査では、ターナー症候群を含む幅広い染色体異常を調べることができます。
ターナー症候群は、モノソミーXをはじめとする、X染色体の数や構造の異常によって起こる女性にみられる染色体異常です。遺伝子疾患であるため、病気そのものを治す根本的な治療はありませんが、症状によっては治療を行うことができます。
ターナー症候群は、低身長や性成熟の遅れなどみられますが、知能発達には問題がないため、健康な人とほとんど同じ生活を送ることができます。
早期に染色体異常を発見して、出産までに必要な情報の準備をするのもよいでしょう。
参考:
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