2021.06.07
出生前診断
クラインフェルター症候群という、男性の性染色体にX染色体が一つ以上多いことで生じる疾患に関して、具体的なメカニズム・症状・関連する合併症・治療などについて詳しく説明していきます。
クラインフェルター症候群とは、性染色体の数に異常がある病気であり、男性に発生する先天異常です。リスク因子や原因は様々ですが、性染色体の分離が不充分なことによって男性のX染色体が一つ以上多いことにより起きる性腺機能不全を主とした病態と言われています。
そもそも性染色体の異常とはどのような状態なのでしょうか。通常、男性は「XY」、 女性は「XX」の性染色体の組み合わせで性別が決定しています。しかしながらクラインフェルター症候群では、男性のX性染色体が1つ増える「XXY」や、2つ増える「XXXY」など、Xが少なくとも1つ以上多いことが特徴です。
クラインフェルター症候群において最も頻度の高い性染色体の核型は「XXY」であり、Xが一つ多い型です。「XXY」に比べて更に稀になりますが、クラインフェルター症候群の中でも「XXXY」や「XXXXY」などXの染色体が増えるほど、症状は強いとされています。
Xの性染色体が通常よりも多いクラインフェルター症候群ですが、大きな特徴として、男性ホルモンである「テストステロン」の生成量の低下があります。これに伴う症状を見ていきましょう。
クラインフェルター症候群の身体的特徴・症状としては、男性ホルモンである「テストステロン」の生成量の低下に伴い、いわゆる男性らしい身体的な成長が認められないことがあります。具体的には、やせ型・なで肩・睾丸のサイズが小さいことが挙げられます。また本来テストステロンには成長のある段階で骨端線を閉じ、背が伸びる時期を終わらせる役割がありますが、その働きが欠如しているために手足が長く高身長となります。
男性ホルモンであるテストステロンは、主に睾丸(精巣)で作られます。テストステロンの生成量が少ないだけでなく、睾丸のサイズも小さいという特徴があります。加えて、ひげや陰毛といった、いわゆる思春期にみられる二次性徴が少ないということも特徴的であり、女性のような胸の膨らみが見られる女性化乳房や、一般的に女性に多い骨粗鬆症、筋力低下といった症状も現れます。
クラインフェルター症候群の発生頻度は男性約660人に1人とされています。なお思春期前に見られる身体的特徴としては背が少し高いことくらいであり、思春期前にクラインフェルター症候群と診断されるのは10%以下であるのが現状です1)。
クラインフェルター症候群の精神的特徴・症状としては、学習障害があり、言語能力に遅れがみられ、学校や社会でトラブルになるケースも報告されていますが、程度には個人差があり、また本人の持って生まれた気質や環境などの影響もあるため、一概なことは言えません。知能が正常なケースも認められています。
クラインフェルター症候群は男性ホルモンの生成や精子形成に影響があるため、精子が確認できない「無精子症」や、精子の数が少ない「乏精子症」といった状態となり、結果的に不妊症の原因となります。
不妊症がきっかけで病院を受診しクラインフェルター症候群と診断されるケースも多く、クラインフェルター症候群の初診時平均年齢は約31歳です2)。
しかしクラインフェルター症候群であっても、精巣が発達するケースがあります。この場合、精子が生産されていることから、子どもを持つことは可能となります。
なお、クラインフェルター症候群であることによる性行動への影響はありません。身体は女性だが心は男性、あるいはその逆である性同一性障害が発生する可能性も、クラインフェルター症候群でない人と比べて変わらないと言われています。
クラインフェルター症候群は「性染色体の異常」が原因ですが、性行動と関連する「心や脳」の部分、性同一性障害の原因となるような「心や脳」の部分、には影響がないようです。
クラインフェルター症候群では、どのような合併症が発生するのでしょうか。具体的な病名を、理由と共にご説明します。
女性がかかるイメージの多い乳がんですが、頻度は少ないものの男性にも発生します。クラインフェルター症候群では男性ホルモンの生産が少ないことから、一般男性と比べ、かかりやすさは20-50倍と言われています。
男性ホルモンと血糖値に関連があることはご存じでしょうか。男性ホルモンの生産量が少ないクラインフェルター症候群では、血糖値のコントロールが難しいことがあり、結果的に肥満や糖尿病といった合併症に繋がります。
こちらも高齢の女性に多いイメージの骨粗鬆症ですが、骨密度は女性ホルモンの一つである「エストロゲン」が重要であり、特に閉経後の女性はエストロゲンが減ることから、骨粗鬆症になりやすいと言われています。
男性の場合、男性ホルモンの一つであるテストテロンを原料にエストロゲンは作られますが、クラインフェルター症候群では、エストロゲンの量も少なくなり、結果的に骨密度の低下から骨粗鬆症に繋がります。
気クラインフェルター症候群を完治させる根本的な治療は存在せず、あくまで対処療法となります。以下それぞれの症状にあった対処療法について説明します。
代表的な治療がホルモン補充療法です。これは、男性ホルモンの生産量が少ないクラインフェルター症候群に対し、男性ホルモンを継続的に補充する療法になります。具体的には2-4週間に1度程度、注射で男性ホルモンを投与します。
男性ホルモンが投与されることから、筋肉量が増え、男性らしい体つきになる、骨密度が増えるといった効果があります。また継続的にホルモン補充療法を行うことは、将来的な肥満、糖尿病のリスクが軽減できるといった効果にもつながります。
程度や個人差はありますが、知能がやや低い、また学習障害、言語障害といった特徴がみられる場合は、療育(発達支援)を行います。クラインフェルター症候群はとりわけ言語能力に遅れがみられることがあります。
幼少期よりクラインフェルター症候群の診断がついた場合、学校や社会での生活に困らないよう、早い段階で継続的に専門家の療育(発達支援)を受けることができます。
精子の数が少ない乏精子症の場合、体外受精、顕微授精を行います。精子が確認できない場合、顕微鏡下精巣内精子回収術で精子を採取し、顕微授精に使用します。
クラインフェルター症候群は、20年程前までは治療困難な無精子症であり、妊娠は難しいと言われていました。しかしながら精巣機能の理解と治療、研究が進み、体外受精、顕微授精により子どもを持つことのできる割合は近年高まっています。
クラインフェルター症候群とは、性染色体の数に異常がある病気であり、約660人に1人の割合で男性に発生する先天異常です。
性染色体の分離が不充分であることが原因とされており、思春期以降に、いわゆる男性的な体つきが見られないことが身体的特徴です。その他、知的障害・発達障害・言語障害といった特徴も見られることがあります。
代表的な治療にはホルモン補充療法があり、男性ホルモンの継続的な投与を行います。
生殖機能について、精子が見られない、もしくは少ない場合、体外受精、顕微授精、微鏡下精巣内精子回収術での不妊症の治療を行うことで、子どもを持つことのできる割合は近年高まっています。
*キーワード:クラインフェルター症候群
【引用文献】
足立明彦先生
首都圏のセンター病院や徳洲会での勤務経験も持つ赤十字病院副部長・大学病院非常勤講師。ゲノム解析など遺伝子関連研究を行う医学者としても活動中。
取得資格:薬剤師、医師、博士(医学)、複数分野の専門医・指導医。
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