2020.10.02
出生前診断
妊婦さんの中には、おなかの赤ちゃんに生まれつきの病気がないか気になっている人もいるのではないでしょうか。胎児の染色体異常を調べる検査のひとつに母体血清マーカーがあります。具体的にどのような検査なのか気になりますよね。
今回は、母体血清マーカーの検査方法や精度、費用について解説します。新型出生前診断(NIPT)との違いについて詳しく説明しているので参考にしてください。
母体血清マーカーとは、妊婦さんの血液中に含まれる胎児や胎盤由来の成分を調べる検査です。おなかの赤ちゃんが特定の先天異常の可能性がないかを調べる検査です。
母体血清マーカー検査は、検査を受ける時期によって2つに分けられます。
以降では、母体血清マーカー検査の種類について詳しくみていきます。
妊娠11~13週に行われる、母体血清マーカー検査と超音波検査を組み合わせた検査です。母体血清マーカー検査では、絨毛由来の「PAPP-A」「FreeβhCG」を調べます。
コンバインド検査では、次の先天異常の可能性について調べることができます。
コンバインド検査では、検査結果について確率で記されます(ダウン症の確率1/580など)。また妊婦さんの年齢や家族歴も、検査結果に影響を与えます。
クアトロテストは名前が示す通り、妊婦さんの血液の中に含まれる4種類の成分「AFP」「非抱合型E3」「hCG」「インヒビンA」を測定する検査です。これらの成分は、胎盤や絨毛から分泌される成分です。
クアトロテストでは、次の3つの先天異常の可能性を調べることができます。
トリプルマーカーテストは、妊婦さんの血液中に含まれる3種類の成分「AFP」「非抱合型E3」「hCG」を測定する検査です。クアトロテストと比べると、測定する成分の数が少ないですが、検査精度が大きく劣るわけではありません。
ただクアトロテストの方が、21トリソミー(ダウン症候群)の検査の感度が上がります。そのため現在では、多くの施設でトリプルテストよりもクアトロテストが行われています。
母体血清マーカーの検査方法は、妊婦さんから10ml程度の血液を採取し、胎盤や絨毛由来の成分を測定します。結果は10日前後でわかります。
母体血清マーカー検査を受ける時期は検査の種類によっても異なります。各検査の実施時期は次のとおりです。
妊娠中期におこなわれるクアトロテストは妊娠16週頃までに受けることが推奨されています。母体血清マーカー検査はおなかの赤ちゃんの先天異常の可能性をスクリーニングするものです。
検査で陽性になった場合、診断を受けるには確定検査である羊水検査を受ける必要があります。とくに、羊水検査で赤ちゃんの先天異常と診断されれば、妊娠の継続を検討する妊婦さんも少なからずいます。
羊水検査の結果が出るまでに数週間かかるため、母体血清マーカー検査は推奨されている時期に受けるようにしましょう。
検査の精度とは、病気である人を正しく判定することをいいます。母体血清マーカー検査でいえば、先天異常のある赤ちゃんを陽性と判定をすることを意味します。
多くの検査にいえることですが、検査結果には誤判定が生じます。母体血清マーカー検査などで誤判定に当たるのが以下です。
母体血清マーカー検査結果は、特定の疾患である確率として表記されます(例:疾患名1/500)。各疾患に対して陽性となる基準の確率が定められています。具体的には以下の通りです。
上記の基準よりも高い場合に陽性、低い場合に陰性と診断されます。そのため、母体血清マーカーの検査結果が陽性であっても、基準より確率が高いだけであり、必ずしもその疾患に罹患しているとは限りません。
逆に陰性であっても基準より確率が低いだけであり、必ずしもその疾患に罹患していないという意味ではありません。
検査で病気の人を検出する力を専門用語で「感度」といいます。クアトロテストの感度は次のとおりです。
母体血清マーカー検査では、あくまで確率が高いか低いかをみます。とくにクアトロテストでは年齢も検査の判定要素となるため、高齢妊娠の人は検査結果が陽性になりやすい特徴があります。
一方で、「陰性だったのに赤ちゃんがダウン症だった」ということもあります。検査結果の解釈が難しく、人によっては「母体血清マーカー検査はあてにならない」と感じる人もいるかもしれません。
AFP | 赤ちゃんから分泌されるホルモン |
---|---|
非抱合性E3 | 赤ちゃんの副腎皮質ホルモンや肝臓、胎盤から生成される |
hCG | 主に赤ちゃんの肝臓で生成 |
インヒビンA | 胎盤から分泌されるホルモン |
AFP | 非抱合性E3 | hCG | インヒビンA | |
---|---|---|---|---|
21トリソミー | ↓ | ↓ | ↑ | ↑ |
18トリソミー | ↓ | ↓ | ↓ | - |
開放性神経管奇形 | ↑ | - | - | - |
これらの項目に加えて、年齢、日本人の基準値、体重、妊娠週数、家族歴、インスリン依存性糖尿病の有無によって染色体異常の確率を算出します。
母体血清マーカー検査では、おなかの赤ちゃんの先天異常の可能性を調べることができます。
21トリソミー(ダウン症候群)とは、21番目の染色体が3本あることで起こる一連の症候群です。一般的に染色体は2本のペアになっており、1本余分の3本あることを「トリソミー」といいます。
ダウン症候群は特有の顔つきをしており、筋肉のゆるみや発達の遅れがよくみられます。また人によりますが、心臓や消化器、甲状腺の病気、難聴などの合併症をともなうことがあります。
一方で、ダウン症候群の人は高い共感力を持ち、視覚や長期記憶が優れている特徴があります。ダウン症候群では、成長段階に応じて注意すべき病気が異なるため、医療機関で定期的なフォローを受ける必要があります。
18トリソミーとは、18番目の染色体が1本余分の3本あることで起こる先天異常です。18トリソミーの赤ちゃんは、胎児期から成長の遅れがみられます。また指の重なりなどの身体の症状のほかに、心臓や呼吸器、消化器、泌尿器などの合併症をともなうことがあります。
18トリソミーの赤ちゃんの寿命は生後約1年といわれてきましたが、近年では生後直後からの医療的な介入により、生命予後が改善することがわかっています。
また、正常な18番染色体をもつ細胞と異常な18番染色体をもつ細胞が混ざっているモザイク型では、20歳まで生きる人もいます。子どもの状況に応じた適切な治療や支援を行うことになります。
神経管とは、脳や脊髄のもとになる組織です。神経管の形成は受精後22日後頃に始まり、頭から尾へ溝を作ったのち閉鎖されます。このとき、神経管の閉鎖が不十分である状態を神経管閉鎖不全症といいます。
神経管閉鎖不全症は、神経組織がむき出しになっているタイプと、皮膚で覆われているものの、神経組織の形成不全が起きているものがあります。
神経管閉鎖不全症では、足の運動障害や感覚障害、尿や便の排泄障害がみられます。これらの症状に対してはリハビリによる運動療法や、オムツの使用など対症療法を行います。
また、神経管閉鎖不全症の部位によっては、子どもの成長とともに脊髄が引き延ばされて症状が出ることもあります。このような場合は、手術により脊髄の引っ張られによる症状の改善を目指します。
妊娠中におなかの赤ちゃんの先天異常について調べる検査には、新型出生前診断(NIPT)があります。新型出生前診断(NIPT)とは、お母さんの血液の中に含まれる胎児のDNAのかけらを採血によって採取し調べることで、染色体異常の有無を確認できる検査です。
母体血清マーカーと新型出生前診断(NIPT)のどちらを受けようか考えている人もいるでしょう。2つの検査の違いは大きく6つあります。
母体血清マーカー検査の陰性的中率は、75~85%と乏しく結果も確率で出されるため、陽性という結果であったとしても必ずしも疾患を有しているという結論には至りません。
約2万例の調査において検査結果が陽性の方が約9%で、そのうち実際に染色体異常があった方は約2%であったという報告もあります。
それと比較して新型出生前診断(NIPT)の精度は99%以上であり陰性的中率99.99%以上であることから、検査結果に関して非常に信頼度が高いと言えます。
母体血清マーカー検査で調べられるのは、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、開放性神経管欠損症(二分脊椎症、無脳症)のみです。
一般的な新型出生前診断(NIPT)では、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー(パト―症候群)となっています。さらに当社では、これらに加えてすべての染色体、性染色体、微小欠失についても検査可能です。
また、性別判定希望の方は、性別も検査でわかります。
母体血清マーカー検査では検査を受ける期間が短めです。例えばクアトロテストは、妊娠15~17週頃までとされており15週以前では検査を受けられません。
新型出生前診断(NIPT)では妊娠10週から検査実施可能であり、より早期に染色体異常の有無の可能性について確認できます。 DNA先端医療の新型出生前診断(NIPT)では、妊娠6週から検査ができます。
母体血清マーカー検査の結果では、確率の算出の基準の中に母体年齢が含まれています。お母さんの年齢が上がれば上がるほど各疾患の罹患率は上昇するので、そのリスクに採血の結果が加味されて確率が算出されます。母体年齢によって検査結果の確率が変動するため、より検査の精度が下がっているといえます。
特に35歳以上の妊婦さんでは検査を受けても陽性になりやすいので注意が必要です。
新型出生前診断(NIPT)では、採血中の胎児のDNAを検査するため、母体の年齢が高ければリスクが上がる事実は変わりませんが、陽性陰性の検査結果自体に年齢が影響することはありません。
母体血清マーカー検査の場合、検査を受けることはできますが21トリソミーの場合は推定確率として結果が算出され、精度は単胎妊娠よりもさらに下がります。また、18トリソミーの検査結果は出ません。
新型出生前診断(NIPT)では、どの染色体異常も検査可能です。ただし、陽性であった場合は双子のうちのどちらか、もしくは2人ともが陽性という結果になります。
母体血清マーカー検査費用は、施設によりますが2~3万円です。新型出生前診断は約20万と母体血清マーカーよりは高額です。
しかし、検査精度が非常に高く陰性的中率がほぼ100%です。ただ、母体血清マーカー検査も新型出生前診断(NIPT)も非確定的検査であるため、診断を受けるためには、確定的検査を受ける必要があります。
確定的検査である羊水検査は15~20万ほどの費用がかかります。本当に疾患の有無を知りたい場合は確定診断も受ける必要があります。
ただ新型出生前診断(NIPT)が陽性であった場合も、陽性的中率は妊婦さんの年齢に依存している結果になります。当社では陽性であった場合の羊水検査の費用は全額負担いたします。
そのため同じ費用がかかるとすると、お母さんにも胎児にもリスクがなく精度がほぼ確定診断と同程度の新型出生前診断を受ける方がメリットが大きいといえます。
母体血清マーカー検査は、妊娠初期に妊娠中期におこなわれる出生前診断です。採血により胎盤や絨毛のたんぱく質を調べることで、21トリソミー(ダウン症候群)・18トリソミー・神経管閉鎖不全症の可能性について調べることができます。
妊娠中に受けられる出生前診断には、新型出生前診断(NIPT)もあります。新型出生前診断(NIPT)と母体血清マーカー検査の違いは多くありますが、新型出生前診断(NIPT)はメリットがいくつかあります。特に、検査精度の違いについてはその後の妊娠の継続に大きな影響を与えることがあります。
両者とも採血による検査ですが、検査内容から精度まで大きく違います。妊娠中に出生前診断を検討している人は、検査の特徴についてしっかりと理解をして、どの検査を受けるか検討しましょう。
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