更新日:2026.08.20
妊娠

妊娠初期に里帰りや出張で長距離を移動することになり、赤ちゃんに影響がないか不安になっていませんか。何時間までなら大丈夫なのか、車と新幹線のどちらを選べばよいのかも判断に迷うところです。
妊娠初期の移動が一律に禁止されているわけではありませんが、妊娠経過や症状によって判断は異なります。
この記事では、流産との関係、移動時間の考え方、交通手段ごとの注意点、出発前の準備を、公的機関の情報をもとに解説します。

妊娠初期の長距離移動を一律に禁止する決まりはありません。妊娠の経過に問題がなく体調が安定していれば、里帰りや出張のために長距離を移動している妊婦さんもいます。
ただし、移動してよいかどうかの判断は1人ひとり異なります。つわりの程度、出血や腹痛の有無、これまでの妊娠経過によって答えは変わります。自己判断で決めず、移動の予定が決まった時点で主治医に相談してください。相談のうえで「今回は控えたほうがよい」と言われることもあります。
なお、日本産婦人科医会は妊娠初期を妊娠13週6日までと定義しています。この記事でも同じ区分で解説します。
出典:日本産婦人科医会|(1)妊娠時期の特徴と正常妊娠・異常妊娠

妊娠初期の流産は、その多くが胎児側の偶発的な要因によって起こります。妊婦さん自身の行動を制限すれば防げるというものではありません。
そのうえで、長距離移動の可否を判断するために知っておきたい点が3つあります。
それぞれ見ていきます。
流産とは、妊娠22週より前に妊娠が終わることを指します。このうち妊娠12週未満のものを早期流産と呼び、妊娠初期に起こる流産はここに含まれます。
日本産科婦人科学会によると、妊娠の約15%は自然流産に終わります。早期流産で最も多い原因は赤ちゃん側の異常で、流産した組織の染色体を調べたところ約80%に異常が認められたと報告されています。日本産婦人科医会は近年の研究として60〜70%という数字を挙げており、報告によって幅がありますが、いずれも受精卵の染色体異常が主な原因である点は共通しています。
これらの異常の多くは偶然に起こるもので、受精卵の段階ですでに経過が決まっているものが大半を占めます。
出典:日本産科婦人科学会|流産・切迫流産、日本産婦人科医会|1.総論
日本産科婦人科学会は、切迫流産に対して安静にしたり薬を投与したりしても、流産を予防する効果はなさそうだと説明しています。行動を制限すれば早期流産を防げるわけではありません。
正常な妊娠であれば、一般的な移動が流産の直接の原因になるとは考えられていません。ただし、あらゆる移動についてリスクがないと証明されているわけでもありません。同学会は妊娠中の重労働や長時間労働は避けたほうがよいとしており、長時間の拘束を伴う移動は体への負担という点で慎重に考える必要があります。
妊娠初期の長距離移動で注意したいのは、移動中の体調悪化と、かかりつけの産婦人科から離れることによる受診の遅れです。
次のような状態にあるときは、長距離移動を見合わせて主治医に相談してください。
妊娠初期の出血や腹痛は、流産だけでなく異所性妊娠など別の原因で起こることもあります。症状だけで原因を判断することはできません。多量の出血、強い腹痛、めまいや立ちくらみがあるときは、移動よりも受診を優先してください。
つわりで水分が摂れない状態も注意が必要です。移動中に症状が強まると、自力で医療機関にたどり着くことが難しくなります。

何時間までなら安全という基準はありません。ただし、目安として使える線はあります。英国の公的医療サービスNHSは、4時間を超える移動には血の固まりができる小さなリスクがあるとしています。4時間をひとつの区切りと考えてください。
4時間未満なら安全という意味ではありません。負担の大きさを決めるのは、同じ姿勢が続くかどうかです。厚生労働省は、長時間座って足を動かさないと血行不良が起こり、血液が固まりやすくなると説明しています。妊娠中はもともと血液の流れが滞りやすく、長く座り続けるとこの2つが重なります。
NHSは、長時間のフライトでは30分ごとに体を動かすことを勧めています。移動を決めるときは、次の3点を確認してください。
同じ3時間でも、自分のタイミングで停まれる車と、席を離れにくい高速バスでは負担が変わります。所要時間だけで判断しないでください。
出典:
NHS|Travelling in pregnancy、厚生労働省|エコノミークラス症候群の予防のために
日本呼吸器学会|エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A

妊娠初期の搭乗そのものを制限する規定は、国内の主要航空会社にはありません。ただし機内は途中で降りられない環境のため、乗る前に知っておきたい点が5つあります。
それぞれ見ていきます。
飛行中は、病院で行う検査や治療をすぐに受けることができません。客室乗務員による応急の対応や、状況によっては目的地の変更が行われることもありますが、いずれも時間がかかります。
妊娠初期はつわりの症状が強く出やすく、出血などの変化が起こることもある時期です。飛行時間が10時間を超える国際線では、その状態のまま長時間過ごすことになります。
厚生労働省研究班が監修する女性の健康推進室ヘルスケアラボでは、飛行機の移動や旅行そのものが赤ちゃんに異常を引き起こすことはないとしたうえで、相応のリスクを伴うと説明されています。搭乗を決める前に、かかりつけの産婦人科へ相談してください。
出典:女性の健康推進室ヘルスケアラボ|妊娠中に海外旅行に行っても大丈夫ですか?
機内では長時間、同じ姿勢で座り続けることになります。厚生労働省は、長時間座って足を動かさないと血行不良が起こり、血液が固まりやすくなると説明しています。妊娠中はもともと血液の流れが滞りやすいため、機内では2つの条件が重なります。
お腹が目立たない妊娠初期でも同じです。日本呼吸器学会が血の固まりができる要因として挙げているのは妊娠そのものであり、お腹の大きさではありません。
予防のためには、こまめに水分を摂り、着席中は足首を動かしてください。NHSは長時間のフライトで30分ごとに体を動かすことを勧めており、シートベルト着用サインが消えているときは可能な範囲で立って歩くと血行が保たれます。締めつけの少ない服装を選ぶことも有効です。弾性ストッキングの使用を考えている場合は、これまでの病歴もあわせて主治医に相談してください。
出典:
厚生労働省|エコノミークラス症候群の予防のために
NHS|Travelling in pregnancy
妊娠中はトイレが近くなり、機内でも席を立つ回数が増えます。通路は狭いうえ、飛行中は揺れることもあります。移動するときは手すりや座席の背に手をかけて、転倒に注意してください。
座席は通路側を選んでおくと、隣の人をまたがずに立てます。予約の段階で指定しておくと移動が楽になります。
頭上の棚へ荷物を上げ下ろしする動作も、体をひねるため負担になります。無理をせず客室乗務員に頼んでください。
妊娠初期の搭乗に、診断書の提出を求める規定はありません。制限がかかるのは出産予定日が近づいた時期です。
条件は航空会社によって異なります。2026年7月時点の国内線の条件は次のとおりです。
| 航空会社 | 診断書が必要 | 医師の同伴が必要 |
|---|---|---|
| ANA | 出産予定日の28日以内 | 出産予定日の14日以内 |
| JAL | 出産予定日の28日前から8日前まで | 出産予定日の7日前以降 |
いずれも診断書は、搭乗日を含む7日以内に医師が作成したものが必要です。国際線や多胎妊娠では条件が異なります。規定は変更されるため、予約前に利用する航空会社の公式サイトで確認してください。
出典:ANA|妊娠中のお客様(国内線)、JAL|妊娠中のお客さま
水平飛行中の機内の気圧は約0.8気圧で、標高約2,000m、富士山5合目あたりと同じ環境です。気圧が変わるのは離陸後の上昇時と着陸前の下降時で、それぞれ15分から30分の間です。この時間帯に耳の詰まりや気分の悪さを感じることがあります。
上空では地上より宇宙線の量が増えます。東京とニューヨークを航空機で往復した場合の被ばく線量は0.11から0.16ミリシーベルトで、日本人が1年間に自然界から受ける平均2.1ミリシーベルトの1割以下にとどまります。日本産婦人科医会は、基礎疾患や妊娠合併症のない正常妊娠であれば、航空機への搭乗は母体・胎児ともに原則として有害ではないと解説しています。
仕事などで搭乗回数が多い場合は、主治医に相談してください。
出典:
JAL|航空機内の環境について
環境省|放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料
日本産婦人科医会|妊娠と航空機搭乗

どの交通手段が優れているという医学的な基準はありません。行き先や体調によって適した手段は変わります。次の観点で比べて選んでください。
| 交通手段 | 所要時間 | 姿勢を変えられるか | トイレ | 途中で中断できるか | 運転の負担 |
|---|---|---|---|---|---|
| 車 | 渋滞の影響を受ける | 停車すれば自由 | 休憩施設を選ぶ | しやすい | 運転する人が必要 |
| 新幹線・電車 | 遅れが少ない | 席を立てる | 車内にあり近い車両を選べる | 途中駅で降りられる | なし |
| 高速バス・夜行バス | 渋滞の影響を受ける | 休憩時間に限られる | 車両によって異なる | しにくい | なし |
| 飛行機 | 距離が長いほど短く済む | 着席中は制限がある | 機内にある | できない | なし |
陸路それぞれの注意点は次のとおりです。
妊娠経過に問題がなければ、妊娠初期の運転そのものが禁止されているわけではありません。ただし、つわりや眠気、めまい、強い疲労があるときは運転を控えてください。眠気が出る薬を服用したときも同じです。長距離では、可能なら運転を代わってもらえる人を確保しておきます。
シートベルトは運転席でも助手席でも後部座席でも着用してください。北海道警察は、シートに深く腰かけたうえで、肩ベルトはお腹の膨らみを避けて胸部を通すよう案内しています。道路交通法施行令には妊娠中の免除規定がありますが、これは着用が療養上または健康保持上適当でない場合に限られます。医師から指示がない限り着用してください。
長時間の移動になるときは、出発前に休憩する場所を決めておきます。サービスエリアやパーキングエリアで車を降り、少し歩いて足を動かすと血行が滞りにくくなります。
指定席を予約しておいてください。自由席は混雑で座れないことがあり、立ったまま長時間過ごすのは負担になります。
席はトイレやデッキに近い車両を選ぶと、席を立つ回数が多くても移動が短くて済みます。通路側にしておくと、隣の人をまたがずに立てます。
新幹線には多目的室が設けられている列車が多く、体調が優れない方や妊産婦が利用できる場合があります。気分が悪くなったときは、駅員や乗務員に申し出てください。設備や空き状況は列車によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
通勤時間帯は混雑して座席の確保が難しくなるため、時間をずらせるなら避けたほうが楽に移動できます。
高速バスは停車のタイミングが決まっています。予定外の停車は難しく、歩いたり休憩の長さを調整したりしにくくなります。
車内にトイレがない車両もあります。予約前に設備を確認してください。座席は通路側で、前方のほうが乗り降りしやすくなります。
夜行バスは座席のまま夜を過ごすため、睡眠の質が下がりやすくなります。同じ姿勢も続くため、日中の便や他の交通手段もあわせて検討してください。

妊娠中の海外旅行はあまりお勧めできません。海外へ行くには必ず飛行機を利用しなければなりませんし、移動時間は長時間になってしまいます。また、海外で何かトラブルがあったときには、現地の医療機関を受診しなければならず医療費が高額になることもあります。国によっては衛生環境がよくなく、きちんとした処置をしてもらえない場合があったり、さまざまな感染症にかかるリスクもあります。どうしてもの旅行であれば多くのリスクを理解したうえで医師と相談し自己責任で行くようにしましょう。
国内との違いは、飛行機ではなく渡航先の条件にあります。日本産婦人科医会は、基礎疾患や妊娠合併症のない正常妊娠であれば、航空機への搭乗は原則として有害ではないと解説しています。一方で厚生労働省研究班が監修する女性の健康推進室ヘルスケアラボでは、妊娠中の海外旅行は勧められていません。
国内移動と異なるのは次の3点です。
それぞれ見ていきます。
海外の医療機関では、窓口でいったん全額を支払うことになります。外務省は、海外での事件や事故の際、医療費や負傷者の移送などの経費は旅行者自身が用意し負担する必要があると説明しています。重傷の場合、医療費は1名につき数百万円に上ることもあります。
帰国後に海外療養費を申請すれば、一部の払い戻しを受けられる場合があります。ただし支給額は日本国内で同じ治療を受けた場合の費用を基準に計算されるため、全国健康保険協会は、海外で支払った額より支給額が大幅に少なくなることがあると案内しています。
産婦人科の体制も国や地域によって異なり、言葉の問題もあります。渡航先で受診できる医療機関を出発前に調べ、不要不急の渡航であれば時期をずらすことも検討してください。
出典:外務省|海外旅行保険加入のおすすめ、全国健康保険協会|海外療養費
外務省は、不測の事態に対応するため、十分な補償のある海外旅行保険への加入は不可欠だとしています。救援チームの派遣費用は数千万円、医療チームの派遣費用は数百万円に上ることがあります。
妊娠中に渡航する場合は、加入前に補償の範囲を確認してください。妊娠や出産に関連する治療を補償の対象外としている商品があります。加入できる妊娠週数に条件を設けている場合もあります。
対象外の治療で高額な費用が発生すると、全額が自己負担になります。申し込む前に、約款の免責事項に目を通しておいてください。
渡航先によっては、日本国内にはない感染症のリスクがあります。生水や氷、加熱していない食品は避けてください。
妊娠中に特に注意したいのがジカウイルス感染症です。東京都感染症情報センターは、妊娠中の感染により小頭症などの先天性障害を起こす恐れがあるとして、妊婦および妊娠予定の方は可能な限り流行地への渡航を控えるよう呼びかけています。世界保健機関も、妊婦は流行地域へ渡航すべきでないと勧告しています。ジカウイルスは主に蚊に刺されることで感染し、輸血や性行為でうつることもあります。
渡航先の流行状況は、厚生労働省検疫所が運営するFORTHで確認できます。また、妊娠中は受けられない予防接種があるため、渡航先で必要な予防接種がある場合は主治医に相談してください。

妊娠初期の長距離移動で問題になりやすいのは、かかりつけの産婦人科から離れることです。体調が悪くなった場合を想定して準備してください。
出発前に確認しておきたいのは次の4点です。
それぞれ見ていきます。
移動の予定が決まったら、次の妊婦健診で主治医に伝えてください。行き先、移動手段、所要時間、滞在日数を具体的に話します。
確認しておきたいのは、移動して差し支えない状態かどうかと、出血や腹痛があった場合にどの時点で受診すべきかです。聞いておけば移動先で迷わずに済みます。
健診が移動日より後になる場合は、受診日を前倒しできないか相談してください。
滞在先の近くで受診できる産婦人科を調べ、電話番号と診療時間を控えておいてください。全国の医療機関は、厚生労働省の医療情報ネット(ナビイ)で検索できます。
体調が悪くなったときの連絡先は、次の順で整理しておきます。
#7119は全国展開の途中で、実施していない地域もあります。滞在先が対象かどうかを出発前に確認しておいてください。
出典:
厚生労働省|医療情報ネット(ナビイ)
総務省消防庁|救急安心センター事業(♯7119)ってナニ?
かかりつけ以外の医療機関を受診する場合に備えて、次のものを用意してください。
| 持ち物 | 用意する理由 |
|---|---|
| 母子健康手帳(交付済みの場合) | 妊娠週数、血液型、血圧や体重の経過が記録されており、はじめて診察する医師でも状況を把握できる |
| マイナ保険証または資格確認書 | 従来の健康保険証は使えない。マイナンバーカードを保険証として登録していない場合は資格確認書を持参する |
| お薬手帳と処方薬 | 服用中の薬を医師に正確に伝えられる |
| 飲み物と食べやすい軽食 | つわりの症状をやわらげ、水分不足を防ぐ |
| エチケット袋 | 車内や機内で気分が悪くなったときに使う |
| 生理用ナプキン | 出血があった場合に対応できる |
| かかりつけと移動先の産婦人科の連絡先 | 電話で相談する際にすぐ取り出せる |
| 携帯電話の充電器 | 連絡手段を確保する |
従来の健康保険証は2025年12月1日で有効期限が終了し、期限切れの保険証を使える経過措置も2026年7月31日で終了します。手元にある保険証をそのまま持参しても受診できないため、事前に確認しておいてください。
母子健康手帳と保険の資格書類は、バッグの奥ではなくすぐ取り出せる場所に入れ、同行者にも保管場所を伝えておきます。
長距離の移動は、できるだけ1人を避けてください。荷物の負担が減り、体調が悪くなったときに助けを求められます。
付き添う人には、妊娠していること、起こりうる症状、かかりつけの産婦人科の連絡先を伝えておきます。
1人で移動する場合は、出発時と到着時に家族へ連絡してください。連絡が途絶えたときに気づいてもらえます。
妊娠初期の長距離移動で決め手になるのは、移動時間の長さでも交通手段でもなく、途中でやめられる計画かどうかです。休憩を挟める、体調が悪くなれば引き返せる、移動先で受診できる。この3点は計画を立てるときの目安になりますが、移動して差し支えないことを保証するものではありません。
そのため、予定を立てる順番を変えてください。行き先と日程を決めてから移動できるかを考えるのではなく、引き返せる行程かどうかを先に確認します。
そのうえで、体調や妊娠経過に不安があれば、次の妊婦健診を待たずに産婦人科へ相談してください。移動の可否を最終的に判断できるのは、あなたの妊娠経過を把握している主治医です。
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