2024.06.05

妊娠

人工妊娠中絶とは?関連する法律や条件や問題点について解説

人工妊娠中絶とは?関連する法律や条件や問題点について解説

妊娠中の女性の中には、人工妊娠中絶を考えている人もいるのではないでしょうか。妊婦さん自身が妊娠を望んでいない場合、人工妊娠中絶を検討する人もいます。

今回は、人工妊娠中絶についてその条件や関連する法律、術後の経過について詳しく説明していきます。人工妊娠中絶について詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてみてください。

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人工妊娠中絶とは

人工妊娠中絶とは、簡単に説明すると手術をして妊娠を人工的に中断させることを言います。身体的または経済的な理由により妊娠の継続が難しい場合や、分娩が困難で母体の健康を害する場合や、暴行や脅迫などによって妊娠した場合に行われます。

胎児が母体の中で発育が進まなかったり死亡してしまった場合には、流産と言われ人工妊娠中絶とは異なります。

人工妊娠中絶にまつわる法律

人工妊娠中絶は、母体保護法という法律に基づいて行われます。母体保護法は、母性の命や健康を保護することを目的にしており、人工妊娠中絶の他にも不妊手術について定めています。
もともと人工妊娠中絶は堕胎(だたい)に該当し、刑法では犯罪に当たるものです。一方、母体保護法では一定条件を満たす妊婦さんに対して、指定医が中絶手術を行うことを合法化しています。

人工妊娠中絶の件数

2022年の人工妊娠中絶の件数はおよそ12.6万件であり、年々低下傾向にあります。人工妊娠中絶の件数が減少傾向にある理由は、家族計画にまつわる情報の浸透や性感染症の予防としてコンドームの使用が広まっていることが挙げられます。

年齢階級別にみると、人工妊娠中絶の件数は20歳代が最も多く、全体の4割を占めています。また、20歳未満の中絶件数が減少傾向であるのに対し、40歳代では毎年微増がみられています。

40歳代の女性は、希望の数の子どもを産み終えた後に、予期しない妊娠をしている可能性があり、産後の家族計画にまつわる引き続き健康教育が必要といえるでしょう。

人工妊娠中絶の条件と受けられる期間

人工妊娠中絶の条件と受けられる期間

人工妊娠中絶手術とは『胎児が母体外では生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその付属物を母体外に排出すること』と定義されており、誰でも受けられるものではなく母体保護法に基づいて実施されます。また、実施には本人と配偶者の同意が必要になります。

人工妊娠中絶は、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの』『暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの』のどちらかに当てはまる場合にのみ実施されます。

人工妊娠中絶はいつまで受けられる?

人工妊娠中絶手術は、妊娠22週未満まで受けることができます
妊娠週数の数え方は最後に月経が来た日を0週0日として計算します。妊娠11週6日までの妊娠初期と妊娠12週0日~妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)の妊娠中期では手術の方法やその後の経過も異なります。
妊娠22週以降はどのような理由があったとしても人工妊娠中絶手術はできませんので、望まない妊娠をしてしまった場合には、なるべく早く病院で相談することが重要になります。

時期別の人工妊娠中絶の方法

人工妊娠中絶の手術方法は、妊娠の時期によってもやり方が異なります。一般に、おなかの赤ちゃんが大きくなるほど、大がかりな手術が必要になり、母体にも負担がかかります。ここでは、妊娠の時期別の中絶手術の方法について詳しくみていきましょう。

妊娠初期の人工妊娠中絶手術

妊娠11週までの妊娠初期の人工妊娠中絶手術では、静脈麻酔をして子宮頚管を広げ、器具で胎児とその付属物をかきだします。その他に吸引キュレットを使用して胎児と胎盤を吸い取る方法もあります。10~15分程度で手術は終了し、痛みや出血も少ないので問題なければ数時間休んだ後その日のうちに帰宅することができます。

妊娠中期の人工妊娠中絶手術

妊娠12週~22週未満の妊娠中期の人工妊娠中絶手術では、薬剤で人工的に陣痛を起こし本物の出産と同様に胎児と胎盤を出し、その後残った組織をかき出します。妊娠12週以降の中期中絶手術では、死産届と胎児の埋葬許可証をもらう必要があります。出産と同様であるため、身体への負担が大きく数日間の入院が必要になります。

人工妊娠中絶手術の影響

人工妊娠中絶手術の影響

人工妊娠中絶手術は、手術が問題なく終われば子宮は元の状態に戻ります。ただし中絶手術を受けることで、子宮を傷つけてしまったり手術後に感染症を起こしてしまったりするリスクがあります。

さらに中絶手術を受けることは、妊婦さん自身にも精神的なダメージを与えます。中絶手術に対する強いストレスが続くことで、ホルモンバランスが崩れ次の妊娠出産が難しくなることもあるかもしれません。

人工妊娠中絶手術を受ける際は、各都道府県の医師会が指定した母体保護法指定医が在籍しており、メンタルケアも十分に行ってくれる病院を選ぶようにしましょう。

なお、人工妊娠中絶手術を行うことでの不妊は心配しなくてもよいのですが、複数回手術を繰り返すと癒着が起こり、妊娠しづらくなることがあります。中絶手術を繰り返すことのないよう、自分の性生活に責任を持つことも大切です

人工妊娠中絶の術後の経過

人工妊娠中絶の術後は、体力を消耗し子宮も傷ついた状態となります。術後は体力が回復するまで安静に過ごし、過度な運動や性交渉は避ける必要があります

また、感染症にかかるリスクがありますので、子宮内を清潔に保つ必要があります。術後1週間は感染リスクを避けるために、入浴の際は湯船につからずシャワーのみで済ませるようにしましょう

出血の量は手術を行った時期などによって個人差があります。少量の出血が続く場合はそれほど問題ありません。一方、大量に出血が続く場合は処置が必要になることがあるので病院への連絡が必要です。

人工妊娠中絶後の生理について

中絶手術後は1か月前後で月経があることがほとんどですが、ストレスで排卵時期がずれてしまうことがあります。また、次の月経が来るまで排卵時期を特定することが難しくなるため、中絶手術を行った後すぐに妊娠してしまうリスクもあります。

手術後、妊娠を望まない場合には必ず避妊を行うようにしましょう

出生前診断と人工妊娠中絶の関係

これまで人工妊娠中絶は、経済的な理由や暴行や健康上の問題から妊娠を望まない場合に選択されてきました。近年は、医療技術の発展により妊娠22週前におなかの赤ちゃんの異常が発見されたために、人工妊娠中絶を選ぶケースもみられています。

妊娠中におなかの赤ちゃんの健康状態を調べる検査に出生前診断があります。一昔前までは出生前診断として、子宮内の羊水を採取して胎児の細胞を調べる羊水検査や絨毛検査が行われてきました。

羊水検査や絨毛検査は妊婦さんのお腹に針を刺すため、母子ともに負担がかかる検査です。その後、医療技術の発展により、妊婦さんの血液中に含まれる胎児の細胞のかけらを調べる出生前診断も登場しました。

妊婦さんの血液を採取して調べる出生前診断には以下があります。

検査名調べられる赤ちゃんの異常
NIPT(新型出生前診断)・21トリソミー(ダウン症) ・13トリソミー ・18トリソミー
クアトロテスト(母体血清マーカー検査)・21トリソミー(ダウン症) ・18トリソミー ・開放性神経管欠損症

NIPT(新型出生前診断)を受けるにあたって

NIPT(新型出生前診断)でおなかの赤ちゃんの染色体異常を指摘されると、人工妊娠中絶を検討する人も少なくなりません。しかし、NIPT(新型出生前診断)は非確定検査です。仮に特定の検査項目の結果が陽性となっても、確定診断を受けるまではあくまで染色体異常の可能性があることを意味します。

実際にNIPT(新型出生前診断)が陽性になった後に、羊水検査を受けて、診断が変わることもあります。
※陰性の場合は、的中率は99.99%以上になりますのでNIIPTのみの検査で安心できます。

NIPT(新型出生前診断)は妊娠初期から受けられ、検査内容も採血のみです。一方で、検査結果が陽性になり、羊水検査や人工妊娠中絶を検討する必要もあるでしょう。特に、やむなく人工妊娠中絶を選択するのであれば、精神的なショックが重くのしかかります。

いくつかの出生前診断の中でも、NIPT(新型出生前診断)は比較的気軽に受けられる特徴があります。だからこそ、検査結果を想定した際のアクションについても、パートナーや家族と十分に考える必要があります。

NIPT(新型出生前診断)を受ける際には、遺伝子カウンセリングなど専門家に相談できる体制を整えている場所で検査を受けるのがおすすめです。
DNA先端医療の場合、認定遺伝カウンセラーの無料相談が受けられます。

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望まない妊娠をしないための避妊法

望まない妊娠をしないために

複雑な事情を抱え悩みぬいた末で決断するという方が多い人工妊娠中絶手術ですが、手術を受けた後、子宮は元に戻っても心の傷は元に戻らないことも多くあります。望まない妊娠をしないためには、効果の高い避妊をすることが大切です。

そのためにはパートナーと家族計画についてしっかりと話し合い協力をしてもらうことも重要です。主な避妊方法について表にまとめました。避妊方法については、その時の家族計画や生活様式などを考慮して無理なく確実に継続できる方法を選択するようにしましょう。

コンドーム

国内の避妊方法として8割以上を占めるのがコンドームの使用です。コンドームは破損や着用の失敗があるため、避妊率がそれほど高いわけではありません。

ただ、望まない妊娠を防ぐ目的以外にも、性感染症の予防効果が高いため、他の避妊方法と併用するのが適しています。

しくみ 男性器にかぶせて精子の放出を防ぐ
メリット ・入手しやすい
デメリット 装着できていなかったり男性主体となりがちで失敗率が高い
購入方法 薬局コンビニなどで購入可能
避妊失敗率 15%前後

低用量ピル

先進国の女性の中で4人に1人が低用量ピルを使用しています。一方、日本では4.2%の女性が避妊目的で低用量ピルを服用しています。低用量ピルは正しく服用できれば高い避妊効果を得られますが、飲み忘れがあるときちんとした効果を得られません。

また、低用量ピルには副作用のリスクがあるため、ヘビースモーカーの人や乳がんの既往のある人などは服用できないことがあります。なお、低用量ピルは避妊効果以外にも月経困難症の治療薬としても用いられています。

しくみ 女性ホルモンを含んだ低用量ピルを正しく服用し月経周期を整える
メリット ・月経周期が規則的になる
・生理痛が軽くなる
・女性主体で避妊することができる
デメリット ・毎日服用しなければならない
・医師による処方が必要
購入方法 婦人科で処方
避妊失敗率 10%前後

IUS(子宮内システム)

IUSは薬剤が付加された子宮内避妊具です。IUSもT字型の避妊具を子宮内に挿入するため、物理的に受精卵の着床を防ぐことができます。

同時に、薬剤には黄体ホルモンが含まれているため、子宮内膜の増殖を防ぎます。そのため、IUSを装着すると、月経時の経血の量も少なくなります。

しくみ 子宮の中に器具を入れることで黄体ホルモンが放出され受精卵の着床や精子が子宮内に侵入するのを妨げる
メリット ・薬の飲み忘れがないため確実に避妊できる
・生理痛が軽くなる
・女性主体で避妊することができる
デメリット ・挿入後数か月は出血が続くことがある
・医師による挿入と除去が必要
購入方法 婦人科で処方処置
避妊失敗率 0.2%

IUD(子宮内避妊用具)

IUDは子宮内に挿入する避妊用具です。IUDの形状はT字をしており、銅が付加されているものとそうでないものがあります。通常のIUDは受精卵が子宮内膜に着床するのを防ぎますが、銅付加タイプのIUDは精子の運動性を低減したり、受精を妨げる働きがあります。

国内ではIUDによる避妊をしている女性は0.8%と非常にわずかです。しかし、正しくIUDを挿入してもらえれば効果が5年ほど続くので、費用対効果が高い避妊法といえるでしょう。

しくみ 子宮の中に器具を入れ直接精子の侵入を防ぐ
メリット ・薬の飲み忘れがないため確実に避妊できる
・授乳中でも使用できる
・女性主体で避妊することができる
デメリット ・生理の量が増える
・医師による挿入と除去が必要
購入方法 婦人科で処置
避妊失敗率 0.8%

避妊手術

避妊手術は、生殖器にアプローチして避妊効果を得る手術です。男性と女性で手術内容が異なります。具体的には、男性への手術では精管を縛り、女性への手術では卵管を縛ります。

いずれの避妊手術も避妊効果が永続しますが、一度手術を受けると生殖機能を元に戻すことはできません。避妊手術を受けた場合も、性感染症リスクはあるため、コンドームを使用する必要があります。

しくみ 管を糸で結んで卵子や精子の通路を遮断する
メリット 確実に避妊できる
デメリット ・手術が必要
・妊娠したいときに不妊になりやすい
購入方法 医療機関で処置
避妊失敗率 0.5%

基礎体温計測法

基礎体温計測法は、女性が毎日基礎体温を測ることで、排卵日前後の妊娠しやすい時期を把握して性交を避けたり、その他の避妊方法をしたりするものです。卵子と精子は、排卵から36時間以内に出合うことで受精となります。一方、それ以降では卵子が体外へ排出されるため、妊娠するリスクが低くなります。

ただ、月経後の低温期から排卵日までは予測しにくいため、補助的に使うのが適しています。

しくみ 基礎体温を測定することで排卵期を知る
メリット 副作用がない
デメリット 少しの生活習慣の乱れで基礎体温は変動するので確実に排卵期を見極めることができない
購入方法 婦人体温計は薬局などで購入可能
避妊失敗率 25%前後

本来であれば、男性も女性も同様に避妊について真剣に考える必要がありますが、実際に妊娠した場合どうしても負担が大きくなるのは女性です。女性主体で避妊することができる避妊法も多くありますので、男性だけに頼らずに自分の身体は自分で守るようにするために正しい知識を身につけておくことが大切です。

まとめ

人工妊娠中絶手術は、どのような方でも受けられるわけではなく母体保護法で受けられる条件が定められています。手術は少なからず母体に負担がかかりますので、様々な事情により妊娠の継続が不可能である場合には、なるべく早くに病院を受診し相談することが大切です。

また、人工妊娠中絶手術を受けることで、心に大きな傷を負う場合があります。大切なことは望まない妊娠をしないことです。性交渉をするということは、妊娠の可能性があるということを大前提として、パートナーとしっかりと話し合い妊娠を望まない場合にはより確実な方法で避妊をするようにしましょう。

参考:

新型出生前診断の倫理的側面
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ABOUT ME

大河友美
国立大学医学部保健学看護科卒業後、大学病院で6年、看護師として勤務。その後、国立大学医学部保健学大学院へ進学し修士号取得。現在は、子育てをしながら医療ライター・監修者として活動中。学歴:平成21年 国立大学医学部保健学看護科 卒業、平成28年 国立大学医学部保健学大学院 修了。取得資格:看護師、保健師、修士(保健学)。

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