2024.07.01
出生前診断
妊婦さんの中には、お腹の赤ちゃんの健康について気になっている人もいるのではないでしょうか?生まれつきの先天異常に、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )という病気があります。
この記事では、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )について解説しています。病気の症状や原因、治療法について知りたい方は参考にしてみてください。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)とは、染色体の異常によって起こる遺伝疾患です。1961年にクーパー医師とヒルシュホーン医師によってはじめて報告されており、病名の由来にもなっています。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群は、異常のある染色体の部分にちなんで、「4p(よんぴー)欠失症候群」ともいわれています。病気の頻度は出生5万あたり1人と推定されており、患者数は1000人以下と推測されています。一方で、染色体の4p部分の欠失の程度が小さい場合は、病気が見逃されている可能性もあり、実際の患者数はさらに多い可能性があります。
また、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の男女比は1:2で、男児よりも女児にみられます。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )の主な症状には、特徴的な顔貌や子宮内から始まる成長障害、重度精神遅滞、筋緊張低下、難治性てんかん、摂食障害があります。
遺伝疾患であるため根本的な治療法はありませんが、状態に合わせた治療やリハビリを受ける必要があります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )には、身体や精神の症状がみられます。
ここでは、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )の主な症状についてみていきます。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )の主な症状として挙げられるのが特徴的な顔貌です。
個人差がありますが、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )の顔立ちの特徴は以下です。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )は赤ちゃんや子どもの顔つきをきっかけに検査につながることもあります。
自分の子どもの顔立ちに心当たりがある人は、医療機関に相談してみるのもよいでしょう。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群ではさまざまな合併症がみられます。けいれんは半数以上にみられ、骨格異常は60~70%、心疾患が30~50%、脳の構造の異常が30%、聴覚障害が40%以上の割合でみられます。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)では、赤ちゃんが子宮にいる時から成長障害がみられます。筋肉がしっかりしておらず、乳児期や幼児期では、母乳やミルクを飲んだり、ご飯を食べたりするのが難しくなるため、発育に遅れがみられやすくなります。また、下半身の筋肉の発達が不良であるため、歩行が可能になるのは半分に満たないといわれています。
運動発達の遅れの程度に差はあるものの、精神の発達に遅れがみられます。知的障害の程度は中等度から重度であることが多く、軽度の知的障害はまれです。発話は二音節を発しますが、中には単純な文を発話できるようになることもあります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群は「4p欠失症候群」という名前もあるように、4番染色体の短腕(p)が欠けていることによって起こります。個々で染色体について少し詳しくみてみましょう。
染色体は23種類あり、それぞれ1から23までの番号が振られています。1本1本の染色体は、真ん中あたりにくびれがあり、くびれを境に短い部分を短腕である「p」、長い部分を長腕である「q」があります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)とは、4番染色体の短腕の欠失によって起こりますが、具体的にどの部分の欠失が特定の症状と関連しているかまでは明らかになっていません。 ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の半数以上は染色体の突然変異が原因で発症します。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の過半数は、遺伝子の突然変異によって起こります。そのため、どの家族でもウォルフ・ヒルシュホーン症候群の赤ちゃんが生まれる可能性があります。
一方で、「不均衡型相互転座」が原因でウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)になることもあります。不均衡型相互転座とは遺伝子のアンバランス(不均衡)によって起こります。不均衡型相互転座が起こりやすいのが、両親のいずれかの遺伝子が「均衡型相互転座」である場合です。
均衡型相互転座は、遺伝子の一部が入れ替わっている状態で、遺伝子の過不足はないため、本人の健康に問題は起こりません。しかしながら、卵子や精子を作る際に染色体は1対になります。これは卵子と精子が受精により合体するためです。
均衡型相互転座では、2対である染色体が1対になるため、遺伝子にアンバランスが生じやすくなります。 両親のどちらかが均衡型相互転座の場合、赤ちゃんがウォルフ・ヒルシュホーン症候群を発症する可能性は数~十数%とされており、子どもに遺伝する可能性は非常に低い特徴があります。まれに子どもに遺伝しても、流産する可能性もあります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )の遺伝要因のそれぞれの確率は以下です。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)は遺伝疾患であるため、根本的な解決を目指す治療法はありません。病気に対しては、症状の緩和やコントロールを目指すための対症療法が行われます。合併症で心不全やてんかんがあれば、内服による治療を行います。
また、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の子どもは発達の遅れがみられることが多いので、療育訓練を受けることが大切です。作業療法や言語療法を通じて、社会性を身に付けたり、理学療法で体に良い刺激を与えたりすることができます。
なお、自分やパートナーが均衡型相互転座の遺伝子を持っている可能性がある方は、検査を受けてみるのもよいでしょう。検査結果によっては、妊娠や出産にあたって、専門家による遺伝カウンセリングを受けるのもおすすめです。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の患者さんにみられる症状は、個人差があります。そのため、病気の経過は、合併症の程度や治療によっても異なります。
日常生活では、病状に合わせた治療やリハビリを受けることが大切です。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)を持つ人の多くは、コミュニケーションへの意欲があるため、ジェスチャーやサインを使った意思疎通を図れることもあります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の患者さんの65%は、健康状態は安定しており、成人期まで生きられるといわれています。しかし、大部分の患者さんは何らか重症疾患を併発しているため、全面的にケアが必要になるケースが多くみられます。
また、30%のウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)を抱える患者さんは、部分的には自分のことができるものの、周囲の人の見守りが必要です。
子どもがウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)かどうかは、特徴的な顔立ち、成長障害、心や体の発達の遅れ、けいれんなどの症状により、病気を疑い、検査を行います。
実際に、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)を診断するには、遺伝子検査によって調べることができます。遺伝子検査では遺伝子の配列を確認しますが、方法によって、原因となる染色体の欠失を検出できる度合いは異なります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の診断のために行われる遺伝子検査は以下です。
FISH法 | 蛍光物質をつけたプローブ(ターゲットとなる遺伝子と相補的な配列を持つ遺伝子)を使う方法。95%以上の確率でウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)検出できる。 |
CMA法 | 蛍光物質で目印をつけ、染色体の中にある遺伝子の量を目で調べる方法。蛍光の色の強さから遺伝子が多いか少ないかも分かる。 |
妊娠中にウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の可能性を調べる検査には、NIPT(新型出生前診断)もあります。NIPT(新型出生前診断)は妊婦さんの血液中に含まれる胎児のDNAのかけらを調べる検査です。検査は、妊婦さんに採血をするだけであるため、妊娠中に心身に大きな負担をかけることがありません。
NIPT(新型出生前診断)は、日本医学会などが認可した認可施設と、非認可施設で受けられます。受検される方は半々ぐらいで受けられているという統計があります。
認可施設では、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの3つの遺伝疾患のみの可能性を調べるため、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群 )について調べることはできません。
DNA先端医療株式会社のNIPT(新型出生前診断)は、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)についても調べることができます。
父親と母親のいずれかが均衡型相互転座であるなど、お腹の赤ちゃんがウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の可能性がある方は、NIPT(新型出生前診断)を検討してみるのもよいでしょう。
NIPT(新型出生前診断)の検査結果によっては妊娠の継続を悩まれる方もいらっしゃいます。遺伝カウンセリングや受検後の方針をよく検討した上で、NIPT(新型出生前診断)を受けることが大切です。
NIPT(新型出生前診断)など出生前検査により、自分の赤ちゃんがウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の可能性があることが判明することがあります。
前述で触れたように、おなかの赤ちゃんがウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)かどうかを調べるには、確定検査である羊水検査や絨毛検査を受ける必要があります。
NIPT(新型出生前診断)は非確定検査であるため、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の項目の検査結果が陽性であっても、おなかの赤ちゃんが本当に染色体異常であるかを保証するものではありません。
非確定検査の出生前診断により、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)が陽性になったときに行う羊水検査と絨毛検査の概要は以下です。
羊水検査 妊娠15週以降 妊婦さんのお腹に針を刺して、子宮内にある羊水を採取して、胎児の染色体を調べる方法。流産や破水のリスクは0.3%。
絨毛検査 妊娠11~14週 妊婦さんのお腹に針を刺して、胎児由来の細胞である「絨毛」を採取して、赤ちゃんの染色体を調べる方法。胎盤の位置によっては、膣からアプローチすることもある。流産や破水のリスクは1%。
羊水検査や絨毛検査により、おなかの赤ちゃんがウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)であることが分かった場合、大きなショックを受ける人も少なくありません。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の診断を受けたときは、専門家による遺伝カウンセリングを受けるようにしましょう。
遺伝カウンセリングとは、染色体や遺伝子の病気に関する悩みや疑問を持つ患者さんや家族に対して、正確な医学情報を提供し、理解を助けるものです。カウンセリングを通して、患者さんや家族自身が、問題の解決をできるように、心理的・社会的な支援を行います。
遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなど、赤ちゃんの先天異常に詳しい専門家が担当します。一方で、遺伝カウンセリングを行える専門家はまだまだ少ないのが現状です。自分の住んでいる地域の医療機関が遺伝カウンセリングを行っているか確認してみましょう。
なお、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)など4番染色体に関する障害児を持つ親御さんで結成された家族会もあります。ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の子どもを育てる上で、役立つ情報が得られるので参加してみるとよいでしょう。
フォーシーズン:https://four-season-whs-kids.jimdofree.com/
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)は、4番染色体の短腕が欠けていることによって起こる遺伝疾患です。遺伝子に異常が起きる原因の半数以上は突発的に起こるものですが、両親のいずれかが均衡型相互転座の遺伝子を持つ場合は、子どもがウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)を発症することがあります。
ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(4p欠失症候群)の症状は、特徴的な顔貌や成長障害のほかに、さまざまな合併症を有することがあります。子どもの病状や発達に合わせて、必要な治療やリハビリを受けることが大切です。
参考:
奇形症候群|ウォルフ・ヒルシュホーン症候群(平成22年度)
4p欠失症候群
兵庫医科大学/出生前診断についてキチンと知っていますか?
ウォルフ-ヒルシュホーン症候群 (Wolf-Hirschhorn syndrome)
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