2022.12.21

妊娠

妊婦は貧血になりやすい?理由と対策を解説

妊娠中は通常時と比べ貧血になりやすい状態で、今まで貧血になったことのない方でも、貧血と診断される場合もあります。妊娠中に貧血になりやすい理由と合わせて、妊娠中に摂取したい1日の鉄分摂取量と食事内容について紹介します。

食事は身体を作る基本となり、毎日の積み重ねが重要です。妊娠中の貧血や、食事についての理解が少しでも深まりましたら幸いです。

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妊娠中に貧血になりやすい理由

もともと貧血ぎみ、という女性は多いですが、妊娠によって新たに貧血と診断され、めまいやふらつき、立ちくらみなど、貧血のような症状が出る方は決して珍しくありません。

妊娠中は普段と身体の状態が異なっているため、必要とされる栄養も変化しています。妊娠中に貧血になりやすい理由を紹介します。

妊婦に認められる貧血の総称を「妊娠貧血」と呼びます。妊婦貧血は全妊娠の20%程度に発症するなど、決して妊娠中に貧血になることは珍しいことではありません。

日本産科婦人科学会では、Hb(ヘモグロビン:酸素を運ぶ役割があり、赤血球に含まれます。値が低くなると貧血などの症状が現れます)値が11.0g/dL未満またはHt(ヘマトクリット:血液中に赤血球が含まれる割合を示しています)値が33%未満と定義しています。

妊娠中、お母さんの身体の循環血液量は普段と比べ増加しています。妊娠32週(妊娠9ヶ月)頃には妊娠していない時と比べ、40~45%(約1,000mL)程度循環血液量が増加しています。血液を構成する赤血球や血色素も約30%増加していますが、赤血球・血色素の増加が追いつかないため、貧血になりやすくなります(※①)。

妊娠貧血の中で最も頻度が多いのは鉄欠乏性貧血で、妊婦貧血の77~95%を占めると言われています(※①)。妊娠中は赤ちゃんの成長のために鉄の必要量が増加します。成人女性の鉄保有量は約2,000mgと言われていますが、妊娠すると、お母さんの身体に貯蔵されている鉄がお腹の中の赤ちゃんの鉄需要によって減少します。これが妊娠中に貧血になりやすい理由です。

妊娠中に貧血となると、胎児への影響も心配です。重症貧血妊婦の場合、胎児死亡のリスクがあり、その他低出生体重児や未熟児の頻度が高いと報告されています(※①)。

妊娠中に摂取したい1日の鉄分摂取量

妊婦貧血の中で最も頻度が多いのは鉄欠乏性貧血です。貧血予防、対策として妊娠中に摂取したい1日の鉄分摂取量を紹介します。

妊娠中は胎児の鉄需要により貯蔵鉄が減少します。妊娠前と比較し、1日4.0mgの鉄分を余分に摂取する必要があります。

具体的には、妊娠初期の場合1日8.5mg程度、妊娠中期・後期は21.0mg程度の摂取が推奨されています(※①)。

葉酸が不足すると貧血になる?

葉酸とはビタミンB群の一種で、血液をつくる上で重要な役割を担っています。葉酸が欠乏すると息切れや脱力感などの症状が見られ、葉酸欠乏性貧血となります。

葉酸は性別、年齢問わず重要な栄養素ですが、妊娠中は特に必要とされています。葉酸欠乏性貧血としての対策はもちろん、葉酸が妊娠中に重要とされているのは神経管閉鎖障害のリスク低減のためです。

「神経管閉鎖障害」とは妊娠初期である妊娠4週目から12週目頃に発生する先天異常の一つで、神経管がうまく作られない状態で、二分脊椎や無脳症となります。

神経管閉鎖障害の対策においては、「妊娠前」からの葉酸摂取が重要とされています。具体的には、妊娠1か月以上前から妊娠3か月までの摂取が有効とされています※(③)。

「日本人の食事摂取基準」において、「妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400µg/日摂取することが望まれる」とあり、葉酸の摂取も重要です(※②)。

妊娠中の貧血対策に摂取したい食べ物

鉄分や葉酸が含まれている、妊娠中に摂取をおすすめしたい食べ物を紹介します。

鉄は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けられ、ヘム鉄は主に動物性食品、非ヘム鉄は植物性食品に含まれています。

ヘム鉄を多く含む食べ物

赤身肉、レバー、カツオ、あさり、しじみなど

ヘム鉄は吸収力が高いと言われています。

非ヘム鉄を多く含む食べ

小松菜、春菊、ほうれん草、豆乳、納豆、大豆、など

非ヘム鉄の吸収力はヘム鉄と比べて高くないものの、ヘム鉄、非ヘム鉄の両方をバランスよく摂取することが大切です。

葉酸を多く含む食べ物

焼海苔、レバー、わかめなどの海藻類、ブロッコリー、ほうれん草、枝豆、大豆など

この他食べ物以外から鉄分を摂取する方法として、鉄のフライパンや鉄瓶など、鉄で作られた調理器具を使用すると、鉄が溶け出し鉄分を吸収することができると言われています。鉄分を積極的に摂取したい場合は、鉄製のフライパンや鉄瓶を使用することをおすすめします。

妊娠中の貧血対策のためには、ヘム鉄、非ヘム鉄、葉酸を多く含む食べ物を摂取する必要があることはもちろん、鉄分を血液にするのを助けてくれる栄養素である、タンパク質やビタミンCなども積極的に取る必要があります。

大切なのは食事のバランスです。鉄分が入っている食事内容を意識しながらバランスの良い食事を摂取し、必要に応じてサプリや栄養補助食品なども検討しながら、食生活を整えてみましょう(サプリメントや栄養補助食品を摂取する場合は用法用量を守り、正しく摂取しましょう。医師の指示がある場合は、指示に従いましょう)。

妊娠中は注意したほうがいい?鉄分の吸収を阻害するもの

鉄分が多く含まれている食事とは別に、実は鉄分の吸収を阻害するものもあります。それはコーヒーや紅茶、緑茶などです。

コーヒーや紅茶、緑茶などは鉄分の吸収率を下げると言われています。これはコーヒーなどに含まれる「タンニン」という成分が原因で、タンニンは鉄の吸収を阻害してしまう働きがあります。

せっかく鉄分が多い食事を摂取しても、タンニンの含まれるコーヒーや紅茶、緑茶を摂ると、鉄分の吸収が妨げられてしまします。特に食事摂取から1時間以内にコーヒーなどを摂取すると、鉄分の吸収が阻害されます。

コーヒーや紅茶、緑茶などは1時間以上時間をあけてから飲むようにしましょう。

妊娠中の貧血と食事のまとめ

今回の記事では、妊娠中の貧血について、具体的な説明や貧血になりやすい理由、妊娠中に摂取したい1日の鉄分摂取量や摂取したい食べ物、逆に摂取を注意したほう良い食べ物について紹介しました。

妊娠中は貧血になりやすく、全妊娠の20%が妊娠貧血になると言われており、妊娠初期で1日8.5mg程度、妊娠中期・後期は21.0mg程度の鉄分摂取が推奨されています。妊娠中の貧血にはヘム鉄である赤身肉、レバー、カツオなど、非ヘム鉄であるほうれん草や小松菜、豆類などを中心に葉酸やビタミンC、タンパク質なども合わせてバランスの良い食事を摂取することが重要です。

またコーヒーや紅茶、緑茶などに含まれる「タンニン」は鉄分の吸収を阻害する働きがあります。食後1時間程度あけてから摂取することをおすすめします。

【引用・参考文献】
http://www.jsognh.jp/common/files/qa/1-1-4_201604.pdf
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会 – 日本人の食事摂取基準(2020年版)
③神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について – 平成12年.児母第72号・健医地生発第78号(通知)

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平野香菜子
内科、精神科にて看護業務に従事経験を持つ看護師・保健師のライター。2020年には、食事や運動をはじめとした生活習慣改善のための保健指導などを行う企業保健師としても活動中。 略歴:2016年 美容系専門学校講師、2017年 大学教員(助手)、2018年 看護師、2020年 企業保健師。取得資格:看護師、保健師。

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