2022.07.08
出生前診断
産まれてくる子どもに病気や障害があったらどうしよう、少しでも可能性を減らすことはできないのかと、特に妊婦さんは自分の行動や健康状態を気遣う方も多いでしょう。「健康で元気に生まれてほしい」という思いは誰しも共通で持っていると思います。
先天性異常の1つに「ダウン症」があります。近年高齢出産の増加により、ダウン症をはじめとした先天性異常についての言葉や理解は急速に広まりつつあります。
今回の記事では、ダウン症についての具体的な説明、葉酸摂取とダウン症の関係について紹介します。今回の記事を読んで、ダウン症や妊娠中における葉酸摂取についての理解が深まりましたら幸いです。
ダウン症の正式名称は「ダウン症候群」で、最初の報告者であるイギリス人のダウン医師の名前から命名されました。
染色体は通常2本ずつの組み合わせで存在していますが、ダウン症は21番目の染色体が1本多いことが特徴で、「21トリソミー」とも呼ばれています。染色体異常による疾患で最も頻度が高いことでも知られています。
個人差はあるものの、ダウン症の乳児期はおとなしく受動的な傾向が見られます。小児の頭は小さく、つり上がった目と低い鼻、舌が大きいという特徴があります。
また一般的にダウン症の小児は低身長、肥満や糖尿病のリスクが高いです。
ダウン症は筋肉の緊張度が低く、知的発達に遅れを伴うことも多いです。個人差はあるものの、IQの平均は50程度と言われており、多動性障害や自閉症、うつ病のリスクも高いです。その他心臓疾患や消化器疾患といった合併症も多く見られ、ダウン症の半数以上が心臓疾患の合併症があります。
ダウン症の死因の大半は心臓病と糖尿病ですが、医療の進歩により、平均寿命は大幅に伸びています。現在は医療やサポート、療育環境の進歩から、ダウン症であっても、周囲のサポートを受けながら学校生活や社会生活を送っています。施設や作業所での軽作業のほか、飲食店や小売業など、様々な分野で多くの人が働いています。(※①)
小児慢性特定疾病情報センターによると、ダウン症が生まれる割合は、600~800人に1人程度と言われています。高齢出産の場合、ダウン症をはじめとした染色体異常の可能性の確率は高くなると言われています。ダウン症の出生率は20歳から24歳だと1,677人中1人、35歳だと378人中1人、40歳だと106人中1人と、年齢が上がるにつれて上昇します。
ダウン症の原因の1つに、細胞分裂の異常があります。データからも分かる通り、高齢出産以外でもダウン症は生まれ、誰にでも起こり得ることです。
妊娠中は超音波検査やNIPT(新型出生前診断)をはじめとした非確定的検査で陽性だった場合、絨毛採取や羊水穿刺といった確定的検査を行うことができます。超音波検査やNIPTをはじめとした非確定的検査は母体、胎児への負担は少ないですが、確定的検査の場合、流産のリスクがあります。
葉酸は妊娠中に摂取すると良いというイメージがある方も多いかと思います。葉酸とは野菜や柑橘類に多く含まれる、ビタミンB群の一種です。葉酸は血液を作ったり、新しい細胞を作る上で重要な栄養素で、妊娠中はもちろん、性別年齢問わず全ての人にとって必要不可欠な栄養素です。
厚生労働省では妊婦の1日の葉酸推奨量を400μg/日としています。
葉酸摂取をすることはダウン症の確率に影響や関係はあるのでしょうか?
近年、妊娠前からの葉酸サプリメントの摂取が、ダウン症児妊娠を減少させる可能性がある、という研究報告が発表されています。
ダウン症は先天性異常の1つであり、染色体異常です。現時点において、葉酸摂取がダウン症予防に確実に効果がある、とは言い切れませんが、リスクを減らす可能性がある、とは言えるかと思います。今後さらに研究が進み、よりはっきりとしたデータやエビデンスが出ることで、ダウン症と葉酸摂取との関係は更に明らかになる可能性があります。
妊娠中に葉酸を摂取することは、ダウン症以外にも様々な影響があります。今回は妊娠中の体に及ぼす影響について3つご紹介します。
妊娠中に葉酸が特に必要とされる理由は、神経管閉鎖障害の予防です。
神経管閉鎖障害とは赤ちゃんの先天異常の一つで、妊娠初期(妊娠4週目から12週目)に発生します。
妊娠初期は胎児の細胞増殖が盛んな時期で、多くの神経管が作られます。この時期に脳や脊髄などのもととなる神経管がうまく作られないことで、神経管閉鎖障害が発生します。
神経管閉鎖障害は、様々な運動障害や排泄の障害といった神経障害である、二分脊椎や無脳症(生まれつき脳の一部が欠損している状態で、生命を維持できない)になります。
神経管閉鎖障害は妊娠初期にうまく神経管が作られないことが原因で、胎児のときから、体に欠損がある場合があります。妊娠初期に葉酸摂取が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが高まることが明らかになってきています(※③)。
神経管閉鎖障害のリスクを軽減させる一つに、葉酸の摂取は有効です。神経管は妊娠初期に形成されます。神経管閉鎖障害のリスク低減のための葉酸の効果的な摂取時期は、およそ妊娠1か月以上前から妊娠3か月までとされています(※④)。妊娠を希望している場合は、妊娠前からの葉酸摂取が推奨されています。
葉酸欠乏症とは葉酸の摂取不足や吸収障害、葉酸の必要量が増大した時(妊娠中や授乳中など)に起こります。症状の1つに貧血がありますが、葉酸欠乏症が原因の貧血は、巨赤芽球性貧血といわれます。
症状はめまいやふらつき、息切れといった貧血の症状にはじまり、重度になると味覚障害や舌の痛みを伴う炎症、下痢を始めとした消化器系の異常、また抑うつなどのメンタル面の変化も伴います。
葉酸欠乏が直接原因である場合、葉酸製の摂取でリスク軽減・改善することができます。
重度の葉酸欠乏症などの場合、思考力が低下する、性格変化や抑うつなどの症状が見られることがあります。これらメンタル面においても、葉酸摂取は効果があります。
特に「うつ」に関しては脳のセロトニン不足が関係しています。
セロトニンは別名幸せホルモンとも言われますが、人間の体内では作る事が出来ません。
葉酸はセロトニンを作る時に大変重要な働きをする酵素です。特に妊娠中はホルモンバランスの変化も相まって、精神がゆらぎやすい時期でもあります。メンタル面での対策においても、葉酸摂取は重要です。
今回の記事では、ダウン症についての具体的な説明、また葉酸摂取とダウン症の関係や、妊娠中の葉酸摂取の影響について紹介しました。
ダウン症とは、21番目の染色体が1本多いことが特徴の先天異常で、「21トリソミー」とも呼ばれています。ダウン症の特徴としては筋肉の緊張度が低く、心臓疾患や消化器疾患といった合併症も多く見られます。
ダウン症は知的発達に遅れを伴うことも多いですが、現在では医療、療育環境の進歩から、周囲のサポートを受けながら学校生活や社会生活を送ることができ、様々な場所で活躍しています。
現時点において、葉酸摂取が必ずダウン症予防に効果がある、とは言い切れませんが、近年、妊娠前からの葉酸サプリメントの摂取がダウン症児妊娠を減少させる可能性がある、という研究報告があります。
葉酸は野菜や柑橘類に多く含まれる、ビタミンB群の一種です。葉酸は血液を作ったり、新しい細胞を作る上で重要な栄養素です。妊娠中は神経管閉鎖障害のリスク軽減をはじめとした様々な影響がありますので、積極的に摂取することをおすすめします。
参考文献:
①公益財団法人日本ダウン症協会 ダウン症のあるお子さんを授かったご家族へ
②水上尚典(2009)『【総説】葉酸摂取のすすめ Increased Folate Intake is Recommended』日本補完代替医療学会誌 第6巻 第2号 53-57
③葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果
④神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について 平成12年 児母第72号・健医地生発第78号(通知)
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