2024.10.02
出生前診断
新型出生前診断(NIPT)で分かる赤ちゃんの染色体数異常のひとつに、パトウ症候群(13トリソミー)があります。NIPT(新型出生前診断)を検討している妊婦さんの中には、パトウ症候群(13トリソミー)がどのような病気なのか知らない人も多いのではないでしょうか。聞きなれない病名なので、症状や特徴について気になりますよね。
この記事では、パトウ症候群(13トリソミー)になる確率や症状、治療法について解説します。NIPT(新型出生前診断)や出生前検査の受検を検討している人はぜひ参考にしてみてください。
パトウ症候群(13トリソミー)とは、13番目の染色体が3本あるいは、1本が部分的に重複していることによって起こる染色体異常です。
染色体には遺伝情報がつまっており、すべての細胞の核に含まれています。髪の毛や肌の色を決定するのは、遺伝子の情報によるものです。染色体は合計23対あり、それぞれ番号が割り振られています。本来、染色体は対の2本ずつあるのが正常ですが、3本ある状態を「トリソミー」といいます。
パトウ症候群(13トリソミー)では、余分な染色体があることで、染色体の数や量にアンバランスが生じます。ちなみに、パトウ症候群(13トリソミー)の「パトウ」は病気を確認した医師の名前にちなんでつけられています。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんは、重い知的障がいやさまざまな身体障がいがみられます。
パトウ症候群(13トリソミー)は13番染色体の数や形の異常によって3つの種類があります。
標準型のパトウ症候群(13トリソミー)は、13番染色体が1本余分にあるタイプです。パトウ症候群(13トリソミー)の75%は標準型に該当します。
転座型のパトウ症候群(13トリソミー)は、13番染色体の形に変化が生じているタイプです。パトウ症候群(13トリソミー)の20%は転座型です。
モザイク型のパトウ症候群(13トリソミー)は、13番染色体が2本である正常な細胞と3本である細胞が混ざっているタイプです。パトウ症候群(13トリソミー)の5%はモザイク型です。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんは、特徴的な身体障がいや重い知的障がいを持っていることがほとんどです。以降では、パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんの症状についてみていきます。
パトウ症候群(13トリソミー)の主な症状は特徴的な顔貌や身体の特徴です。具体的な症状は次のとおりです。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんは、体が小さく、口唇裂や口蓋裂といった顔の見た目の異常がみられるため、妊娠時の超音波検査をきっかけに気づかれることもあります。その他の見た目の特徴には、目が小さい、瞳孔が欠けている、網膜は発達していないなどがあります。耳には奇形がみられ、通常よりも低い位置にあるのが特徴で、難聴がみられることがあります。
パトウ症候群(13トリソミー)では顔貌以外にも、身体的な特徴があります頭皮の一部が欠けていたり、皮膚に穴が空いていたりすることがあります。手足の指が曲がりにくく、余分な指があることもあります。爪の幅が狭く、発育も十分ではありません。
男の子の場合は、ペニスが小さく、鼠径ヘルニアがみられることがあります。ただパトウ症候群(13トリソミー)の症状は個人差が大きく、すべての赤ちゃんに同じ症状がみられるわけではありません。
とくにモザイク型のパトウ症候群(13トリソミー)では、症状が軽くなる傾向があります
パトウ症候群(13トリソミー)は顔貌の特徴以外にも、さまざまな病気や合併症がみられます。合併症とは、ある病気が原因で起こる別の病気のことです。
パトウ症候群(13トリソミー)でみられる症状や合併症は以下のとおりです。(※3)
パトウ症候群では次の中枢神経系の合併症がみられます。
パトウ症候群(13トリソミー)では、脳の構造異常やけいれんがみられたりします。脳の発育が悪いことが多く、知的障がいを抱えていることがほとんどです。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんは、80%には心臓の奇形がみられます。循環器系の主な合併症は以下です。
パトウ症候群(13トリソミー)でよくみられる心臓の異常が心室中隔欠損です。パトウ症候群では、心臓の奇形の有無が予後に影響を与えるともいわれています。
パトウ症候群(13トリソミー)でみられる呼吸器の合併症は以下です。
パトウ症候群(13トリソミー)では、無呼吸といって呼吸をしていない状態がみられることもあります。
パトウ症候群(13トリソミー)でみられる消化器の合併症は以下です。
パトウ症候群(13トリソミー)では泌尿器や生殖器にも合併症がみられることがあります。
パトウ症候群(13トリソミー)の男の子の赤ちゃんでは陰嚢が下がっていない停留精巣や、女の子では子宮の形の異常がみられることがあります。
パトウ症候群(13トリソミー)では、ホルモンの分泌機能に異常が起こることがあります。内分泌系の合併症は次のとおりです。
パトウ症候群(13トリソミー)では、手の指を伸ばしにくくなったり、指が5本以上みられたりすることがあります。
パトウ症候群(13トリソミー)は、5,000~12,000人に1人の割合でみられるまれな先天異常です(※1)。パトウ症候群(13トリソミー)の原因は、13番目の常染色体が2本ではなく3本あることによって起こります。
パトウ症候群(13トリソミー)の1本余分な染色体は、赤ちゃんに偶然に起こります。一方で、染色体の異常が父親や母親から受け継がれるケースもあります。とくに35歳以上の高齢妊娠では、赤ちゃんがパトウ症候群になる可能性が高くなります。
これは卵子の高齢化が原因で、細胞分裂が起こる際に染色体がきちんと分裂しないことがあるためです。通常の細胞の染色体は2対ですが、卵子や精子などの生殖細胞は、受精卵として1つの細胞になるため、染色体は1対になります。
母親の年齢別のパトウ症候群(13トリソミー)がみられる確率は次の通りです(※4)。
近年、国内では晩婚化により出産の高齢化が進んでいます。高齢出産にはさまざまなリスクがありますが、赤ちゃんの染色体異常のリスクも高くなります。特に、出産の高齢化により、性染色体の異常のリスクはそれほど増えませんが、常染色体の異常が増えることが分かっています。
このように、社会が少子化・高齢出産が増えているなか、おなかの赤ちゃんの健康状態を知る手段として、出生前診断への関心が高まっています。 新型出生前診断(NIPT)では、パトウ症候群(13トリソミー)を含めた赤ちゃんの染色体異常の可能性を知ることができます。高齢出産などリスクのある妊婦さんは、妊娠中に新型出生前診断を受けるかどうか、一度考えてみるのもよいでしょう。
両親から受け継がれる遺伝子が原因で、子どもがパトウ症候群(13トリソミー)になることがあります。転座型のパトウ症候群(13トリソミー)では、1両親のいずれかから染色体異常を受け継いでおり、13番染色体の形の変化がみられます。
ここでは、転座型のパトウ症候群(13トリソミー)の原因となる「不均衡型ロバートソン転座」についてみていきます。
染色体における転座とは、自然発生などにより切断された染色体の断片が、他の染色体と再結合することです。転座は染色体の一部が入れ替わっている状態であり、遺伝情報が不足しているわけではないため、本人の健康に影響はありません。
しかし、転座のある染色体が子どもに受け継がれる際に、影響を与えることがあります。前述したように、一般的な細胞の染色体は2対となっていますが、卵子や精子は1対となっているためです。
そのため、卵子や精子の細胞を作る際に、染色体の分布が均衡のままのこともあれば、不均衡となり子どもの健康に影響を与えることもあります。とくに後者を不均衡型転座といいます。
パトウ症候群(13トリソミー)でみられるのは、「不均衡型ロバートソン転座」です。ロバートソン転座とは、短腕を失った染色体が長腕同士で再結合している状態をいいます。
染色体は中心部を境目に短い部分(短腕)と長い部分(長腕)に分かれています。とくに、13番染色体は短腕が短く、転座がみられやすい特徴があります。
パトウ症候群(13トリソミー)を起こす13番染色体の不均衡型ロバートソン転座は、家系に引き継がれているケースがあります。
両親のいずれかが不均衡型ロバートソン転座である場合、子どもがパトウ症候群(13トリソミー)となることがあります。
過去の妊娠で赤ちゃんがパトウ症候群(13トリソミー)の疑いがあった場合や、パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんを出産したことがある人は、遺伝カウンセリングを受けるのがおすすめです。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんの生存率は、1か月が半数程度、1年が10%程度といわれています(※3)。妊娠中に流産や死産になることが多いですが、中には出産に至る赤ちゃんもいます。しかし、パトウ症候群(13トリソミー)の寿命は極めて短く、数時間から数週間で亡くなることがほとんどで、生存期間の中央値は10日間といわれています(※1)。
ただモザイク型のパトウ症候群(13トリソミー)は、症状が軽い傾向があります。そのため、パトウ症候群(13トリソミー)であっても成人まで生きられる人もいます。(※3)
パトウ症候群(13トリソミー)のようなトリソミーによる先天異常に、ダウン症があります。ダウン症は21トリソミーと呼ばれるように、21番目の染色体が3本あることによる染色体異常です。
パトウ症候群(13トリソミー)とダウン症は、違いについて知りたい人もいるでしょう。パトウ症候群(13トリソミー)とダウン症の顔貌の特徴や症状、平均寿命の違いは以下のとおりです。(※1)
パトウ症候群 | ダウン症候群 | |
染色体異常 | 13トリソミー | 21トリソミー |
出生する割合 | 5000~12000人に1人 | 600~800人に1人 |
顔貌の特徴 | 頭がゆがんでいる、目が小さい、耳が低い | 目が離れている、鼻が低い、 |
その他の症状 | 成長障害、重度の発達の遅れ、中枢神経合併症など | 筋肉がしっかりしていない、生まれつきの心臓病、消化器疾患、神経疾患、内分泌疾患など |
平均寿命 | 数時間から数か月 | 60歳 |
トリソミーなど染色体異常があると、流産や死産となりやすいですが、パトウ症候群(13トリソミー)とダウン症は出生することができます。また、これらのトリソミー症候群以外にも出生可能なのが18トリソミーです。パトウ症候群(13トリソミー)、ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミーはNIPT(新型出生前診断)の主要な検査項目です。
赤ちゃんがパトウ症候群(13トリソミー)かどうかは、出生前や出生後の検査で見つけることができます。
パトウ症候群(13トリソミー)の発見や診断のために行われる出生前の検査は以下です。
・超音波検査
超音波検査はエコー検査とも呼ばれており、超音波を当ててその反響を画像化する検査です。妊婦さんのお腹に冷たいジェルを塗りますが、体に負担はかかりません。
パトウ症候群(13トリソミー)についてエコーで分かるか気になっている人もいるでしょう。妊娠中の超音波検査(エコー)を通して、パトウ症候群(13トリソミー)の可能性を知ることができます。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんは、健康な赤ちゃんよりも体が小さい特徴があります。また、羊水が通常よりも多い状態(羊水過多)や、心臓の奇形がある場合も、パトウ症候群(13トリソミー)が疑われます。
・血液検査
妊婦さんの血液には、おなかの赤ちゃんの遺伝子のかけらが含まれているため、血液検査によってパトウ症候群(13トリソミー)のリスクがあるかどうかを調べることができます。検査は妊婦さんに採血を行うだけなので、母子への体の負担が少ないのが特徴です。
パトウ症候群(13トリソミー)が分かる血液検査には、新型出生前診断(NIPT)などがありますが、検査で陽性になっても確定ではなく、診断のためには確定検査を受ける必要があります。
・絨毛検査
絨毛検査で細胞を採取した後、胎児の遺伝情報を調べる検査で、妊娠10~13週頃に行われます。絨毛は胎盤の一部の細胞です。絨毛検査は、検査中は超音波検査で胎盤の位置を確認しながら、絨毛を採取しますが、胎盤の位置によって採取方法が異なります。
血液検査と比べて、より多くの胎児の遺伝情報があるため、出生前診断の確定検査のために行われます。しかし、流産や早産、出血などのリスクがあり、実施している医療機関が限られている特徴があります。
・羊水検査
妊婦さんのお腹に針を刺して、採取した羊水を調べる検査です。羊水中には胎児由来の細胞が含まれており、採取後に培養した後、遺伝子の解析を行います。羊水検査の実施期間は、妊娠15~18週ですが、検査結果を得るまでに3週間ほどかかります。
絨毛検査と同様に、超音波検査や血液検査で赤ちゃんの染色体異常が疑われた場合、診断のために行われますが、流産や早産の可能性があります。
生まれてきた赤ちゃんの身体の特徴から、パトウ症候群(13トリソミー)の可能性をみることができます。パトウ症候群(13トリソミー)が疑われる場合は、赤ちゃんに採血をして、染色体異常があるかどうかを調べます。
おなかの赤ちゃんがパトウ症候群(13トリソミー)である場合、95%以上の高い確率で死産か流産になることがほとんどです。また、赤ちゃんが生まれたとしても、ほとんどは生後1か月になる前に亡くなることが多く、1年以上生きている子どもは1割未満です。
パトウ症候群(13トリソミー)など染色体異常を解決する治療はありません。これまではパトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんに対して積極的な治療が行われていないことがほとんどでした。
しかし、近年では、パトウ症候群(13トリソミー)のある赤ちゃんが抱える心臓の奇形や口蓋裂に対して手術を行ったり、症状に対して薬を処方したりする例もみられています。
パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんに対して、積極的に治療することで、その後の生命予後が改善することがことが明らかになっています。(※3)アメリカの調査では、パトウ症候群(13トリソミー)の子どもの10年生存率が20%という報告もあります。
パトウ症候群(13トリソミー)の子どもに対しては、本人の病状に合わせた医療ケアや療育支援が必要です。パトウ症候群(13トリソミー)を持つ赤ちゃんをお持ちのご家庭は、どのように対応していくか考えていく必要があるでしょう。
NIPT(新型出生前診断)出産前におなかの赤ちゃんがパトウ症候群(13トリソミー)であることが分かったら、確定的検査を受けるかどうか検討しましょう。出生前検査の中には、非確定的検査と確定的検査があります。
非確定検査は赤ちゃんの染色体異常などの可能性の有無を調べるためのものであり、診断には至っていません。赤ちゃんの染色体異常について診断するには、確定的検査を受ける必要があります。非確定的検査と確定的検査は以下のとおりです。(※2)
・非確定的検査
超音波検査(エコー検査)
母体血清マーカー検査(クアトロテスト・トリプルマーカー)
NIPT(新型出生前診断)
・確定的検査
羊水検査
絨毛検査
例えば、NIPT(新型出生前診断)でパトウ症候群(13トリソミー)の項目が陽性になっても、該当の病気の可能性であることを意味します。お腹の赤ちゃんがパトウ症候群(13トリソミー)かどうかの診断を受けるためには、羊水検査や絨毛検査を受ける必要があります。
確定検査は妊婦さんのお腹に針を刺す必要があるため、母子の両方に負担がかかったり、リスクを伴ったりするものです。
NIPT(新型出生前診断)など非確定検査は、体への侵襲性が低く、比較的受けやすい検査です。しかし、検査結果によっては、今後の方針について決めなければいけない状況になることもあります。出生前検査を受けるときは、このような状況になることも想定したうえで検査を受けるか決めましょう。
出生前検査は、おなかの赤ちゃんの染色体異常の可能性や診断を受けられるものです。出産前に赤ちゃんの病気の可能性を知ることは、両親が情報収集や赤ちゃんのケアの準備をしやすくなる面がありますが、妊娠の中断を検討する人も少なくありません。
出生前検査を受けるときは、検査前後に遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。NIPT(新型出生前診断)などでパトウ症候群(13トリソミー)の項目が陽性になったときは、専門家による遺伝カウンセリングを受けるようにしましょう。
遺伝カウンセリングでは、パトウ症候群(13トリソミー)の経過や医療補助など、病気に関する正しい情報を得ることができます。パトウ症候群(13トリソミー)に対して具体的にイメージができるようになることで、今後の方針についての意思決定がしやすくなります。
しかし、遺伝カウンセリングを行える専門家の数はまだまだ十分ではなく、すべての医療機関で専門的なカウンセリングを受けられるわけではありません。NIPT(新型出生前診断)など出生前検査を受けるときは、遺伝カウンセリングを受けられる施設を選ぶとよいでしょう。
パトウ症候群を持つ赤ちゃんをお持ちのご家庭は、どのような対応をしていくか考えていく必要があるでしょう。
パトウ症候群(13トリソミー)は、13番目の常染色体が2本ではなく、1本余分にあることで起こる染色体異常です。パトウ症候群(13トリソミー)では、心臓や顔面の異常、脳に発達の遅れにより、重度の知的障がいを抱える特徴があります。
おなかの赤ちゃんがパトウ症候群であると分かっても、多くの場合は流産や早産となりますが、中には出産に至るケースもあります。しかし、パトウ症候群(13トリソミー)の赤ちゃんは、生後1ヵ月前に亡くなってしまうケースがほとんどです。
おなかの赤ちゃんがパトウ症候群(13トリソミー)の可能性がある場合は、家族としてどのようにしていきたいかよく話し合いましょう。
参考:
※1:厚生労働省/NIPTの対象とされるトリソミーについて
※2:兵庫医科大学/出生前診断についてキチンと知っていますか?
※3:埼玉医科大学病院 難病センター/13トリソミー(パトウ症候群)
※4:近畿大学病院/第25回
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