2024.08.01
出生前診断
染色体異常による先天性疾患のひとつにディジョージ症候群があります。あまり聞きなれない病名ですが、どのような病気なのか知りたい人もいるのではないでしょうか。
本記事では、ディジョージ症候群の原因や診断、症状や治療方法、予後について紹介します。記事を読むことで、ディジョージ症候群の原因や症状について理解を深められます。新型出生前診断(NIPT)など、おなかの赤ちゃんに対する出生前検査を検討している人も参考にしてみてください。
ディジョージ(DiGeorge)症候群は、染色体異常である「22q11.2欠失症候群」による先天性疾患です。「22q11.2欠失」は、「にじゅうにきゅーいちいちてんに」欠失と読みます。
ディジョージ症候群は、胎児期にみられる魚のエラのような器官(咽頭弓)の形成に異常が起こります。咽頭弓は一時的な器官ですが、おなかの赤ちゃんの成長とともに、心臓や動脈、胸腺、副甲状腺などに発達する重要な器官です。
ディジョージ症候群では咽頭弓の形成異常が起こるため、心臓や副甲状腺、顔面形成などにさまざまな臓器に異常がみられます。また個人差がありますが、精神発達や言語の遅れを伴うこともあります。
ディジョージ症候群の発生頻度は約4000~6000人に1人の頻度でみられますが(※①)、微笑欠失症候群の中では最も頻度が高いといわれています。
ディジョージ症候群は、22q11.2欠失(22番染色体の長腕の11.2領域が欠けている状態)によって起こります。まずは、22q11.2欠失について詳しくみていきましょう。
ヒトの細胞には23種類の染色体があり、それぞれ番号が振られています。また染色体の構造は2つのアームによって分割されていて、短い方をp(短腕)長い方をq(長腕)と表します。また、染色体のアームには、その位置ごとに番地のように数字が割り振られています。
欠失とは、染色体の一部が欠けている状態を意味します。染色体の一部が欠けていると、異常なたんぱく質が合成される原因になります。
染色体異常が起きる原因の1つに、細胞分裂の異常があります。染色体異常のほとんどが突然変異で発症しますが、遺伝により家族性のディジョージ症候群を発症する人は約10%程度です。
ディジョージ症候群の発症メカニズムについては明らかになっていません。現時点で、ディジョージ症候群には、「Tbx1」というヒトの心臓や大血管の形を決める遺伝子の欠失が大きく関わっていると考えられています。
しかし、患者さんの中には、Tbx1遺伝子の欠失がみられない人もいたり、合併症の重症度にも個人差があったりすることから、ディジョージ症候群の発症のメカニズムはより複雑であるとされています(※⑤)。
新たな研究報告では、ディジョージ症候群には、遺伝子の発現や代謝などを制御「CRKL」という遺伝子との関わりが考えられています。マウスを用いた実験では、CRKL遺伝子が欠けていると、心臓やその血管の形成に異常を引き起こすことが分かっています。
ディジョージ症候群が子どもに遺伝する確率は50%です(※②)。ただ多くの場合、22q11.2欠失は突然変異によって起こります。
自分に22q11.2欠失である場合、子どもに遺伝する可能性があります。自分またはパートナーがディジョージ症候群の場合、子どもを希望するときに、遺伝子カウンセリングを受けるのがおすすめです。
ディジョージ症候群では、胎児期に咽頭弓の形成が不十分になることで、心臓やその血管、胸腺、副甲状腺などさまざまな器官に影響を与えます。ディジョージ症候群でみられる主な症状は以下のとおりです。
ディジョージ症候群でよくみられるのが、先天性心疾患(心臓に生まれつき異常があること)です。中でも、多くを占めるのがファロー四徴症で、患者の約15%がディジョージ症候群といわれています(※②)。
ファロー四徴症は、名前が示すように次の4つの特徴があります(※③)。
ファロー四徴症は、4つの特徴の程度や合併症などにより症状はさまざまです。生まれてきた赤ちゃんにファロー四徴症があると、生後2~3ヶ月の時期から唇や爪の色が紫色になるチアノーゼが出現します。また、体重増加不良や哺乳困難、呼吸切迫などの心不全の症状がみられることもあります。
ディジョージ症候群は、副甲状腺の低形成がみられることがあります。副甲状腺は副甲状腺ホルモンを分泌する器官で、血液中のカルシウム濃度を維持する働きがあります。副甲状腺の形成が不十分でその機能が低下すると、血中のカルシウム濃度の低下が発生します。
そのためディジョージ症候群では、手足の筋肉の痙攣(テタニー)、しびれなど低カルシウム血症の症状がみられることがあります。ディジョージ症候群による低カルシウム血症は成長とともに改善しますが、感染症時に血液中のカルシウム濃度が低くなることがあります(※⑥)。
ディジョージ症候群は別名「胸腺低形成症候群」とも呼ばれるように、胸腺がない・もしくは未発達になります。胸腺は免疫機能に重要とされるT細胞の発達に必要な臓器です。胸腺の形成に異常がある場合、ウイルスや細菌に対する免疫力が低くなります。
とくにディジョージ症候群では、T細胞そのものに異常はみられませんが、T細胞が成熟するための分化環境に異常が生じます。
ディジョージ症候群の患者さんは、次のように特徴的な顔つきがみられます。
ディジョージ症候群の赤ちゃんで口蓋や口の奥に異常があると、ミルクを飲むのに時間がかかったり、むせたりすることで、体重が順調に増えにくくなります。
ディジョージ症候群では、精神発達や言語の遅れなどがみられることがあります。とくに言語の遅れに関しては、口内の構造異常により、鼻声になったり、言葉をはっきり話せなかったりすることがあります。
精神発達と言葉の遅れは、小学校就学前からの学童期の前から目立ちやすくなりますが、程度や症状には個人差があります。
ディジョージ症候群では、上記すべての症状を持つわけではなく、患者さんによって症状やその程度が異なります。
ディジョージ症候群の治療には対症療法を行います。ディジョージ症候群は染色体異常による先天性疾患であるため、根本的な解決を目指した治療はありません。症状ごとの治療内容は以下のとおりです。
先天性心疾患に対しては、手術や薬物療法、生活指導をします。
副甲状腺機能低下症に対しては、症状に合わせてビタミンD製剤やカルシウム製剤などの内服で治療します。
ディジョージ症候群を抱える子どもは、呼吸器の感染症や中耳炎にかかりやすい特徴がありますが、1つ1つ治療することができます。問題がなければ、予防接種を受けることも可能です(生ワクチンを含む)。免疫低下の度合いに応じて、感染症の予防行動も重要です。
また重度の免疫不全に対しては、造血幹細胞移植や抗生物質で治療を行うことがあります。そのほか、胸腺組織を移植する治療も報告されています。
ディジョージ症候群の赤ちゃんに口蓋裂がみられる場合、言葉を覚え始める1歳半から2歳ごろに手術を行います。手術後に正しい発音ができるように言語療法を受ける必要があるためです(※④)。
個人に合わせた、幼少期からの介入や療育を継続的に行うことが重要です。
ディジョージ症候群の症状の度合いは、患者さんによって違いがあります。患者さんの予後や寿命に大きな影響を与えるのが、先天性心疾患と胸腺の形成不全による免疫不全です。
ディジョージ症候群は、妊娠中の超音波検査(エコー検査)で兆候を確認できる場合もありますが、多くは出生後の症状から検査を行います。
ディジョージ症候群は、患者さんの80%に先天性疾患があり、多くに心臓や副甲状腺、顔面形成に異常があるためです。染色遺体異常が疑われる場合は、遺伝子検査により22q11.2欠失を確認し、ディジョージ症候群と診断されます。
ディジョージ症候群により、心臓や副甲状腺、特徴的な顔つきが確認できた場合、血液検査や心エコー検査で確定診断を行います。
妊娠初期から検査が可能な新型出生前診断(NIPT)でもディジョージ症候群の可能性について調べることができます。新型出生前診断(NIPT)は採血のみの検査であるため、妊婦さんやおなかへの赤ちゃんへの負担が小さいのが特徴です。
DNA先端医療株式会社では、ディジョージ症候群をはじめとした微小欠失検査が可能です。微小欠失検査はトリソミー検査では検知できない、次の染色体の微細な欠失について検査できます。
そのほかに当社は微小欠失検査以外の次の検査も実施しております。
上記のトリソミー検査のほか、性染色体検査や全染色体検査が可能です。
新型出生前診断(NIPT)は出生前診断の1つですが、非確定検査です。新型出生前診断(NIPT)を受けた後に、ディジョージ症候群など特定の項目が陽性になった場合、確定診断を受けるためには羊水検査などの確定検査を受ける必要があります。 新型出生前診断(NIPT)で検査結果が陽性だった場合、確定検査を受ける前に妊娠の継続について迷われる方も多くいます。新型出生前診断(NIPT)を受けるときは、専門家によるカウンセリングを受けるようにしましょう。
妊娠中に受けた新型出生前診断(NIPT)で陽性になっても、おなかの赤ちゃんがディジョージ症候群を持っていることが確定となったわけではありません。新型出生前診断(NIPT)の陽性結果は、染色体異常の可能性を示すものです。確定診断を受けるには、絨毛検査または羊水検査を受ける必要があります。
また、ディジョージ症候群の90%は、子どもの遺伝子の突然変異によるものです。新型出生前診断(NIPT)でディジョージ症候群の項目が陽性になっても、自分を責めないようにしましょう。
出生前検査で陽性になったら遺伝カウンセリングを受けることが大切です。遺伝カウンセリングでは、専門家が正確な医学情報の提供や病気に関する悩みに対する支援を受けられます。
遺伝カウンセリングで、どのような病気なのか深く知ることで、今後の選択肢を決めるのに役立ちます。
ディジョージ症候群は、人によって症状の種類や程度が異なります。染色体異常による先天性疾患に対して、重い病気をイメージする人も多いでしょう。
ディジョージ症候群の子どもは、重度の先天性心疾患や免疫不全がなければ、予後が悪いわけではありません。医療ケアが必要な人もいれば、通院をせずに日常生活を送っている人もいます。
ただ、1つ1つの合併症に対して治療が必要だったり、発達がゆっくりであることに対して細やかな対応やフォローが必要ったりと、包括的なケアが求められます。
医療機関の中には、遺伝外来のほかにディジョージ症候群に特化した集団外来やメンタルヘルス外来を設けているところもあります。ディジョージ症候群の子どもを抱える家族と情報共有するのもおすすめです。
ディジョージ症候群とは、22番染色体の一部(22q11.2)に小さな欠失がある疾患で、約4000~6000人に1人の割合で発生するといわれています。病気の発症メカニズムについては、はっきりと分かっておらず、胸腺がない・もしくは未発達なことから、胸腺低形成症候群とも呼ばれています。
ディジョージ症候群では、心臓や副甲状腺、顔面形成などに異常が見られますが、患者さんによって症状の程度に差があり、精神発達や言葉の遅れを伴うこともあります。ディジョージ症候群に対しては、症状やその程度に合わせて治療を受けましょう。
【参考文献】
①小児慢性特定疾病情報センター – 胸腺低形成(ディ・ジョージ(DiGeorge)症候群/22q11.2欠失症候群)
②難病指定センター – 22q11.2欠失症候群(指定難病203)
③国立研究開発法人 国立循環器病研究センター – ファロー四徴症(tetralogy of Fallot)
④口腔外科相談室 – 口唇裂口蓋裂などの先天異常
⑤東京大学大学院新領域創成科学研究科-22番目の染色体欠失による指定難病「22q11.2欠失症候群」に 糖代謝制御異常が関与する可能性を発見
⑥埼玉県立小児医療センター - 22q11.2 欠失症候群について知っておいていただきたいこと
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