2020.10.02
出産
妊娠中の女性の中には、無事に出産を迎えられるか不安を抱いている人も多いのではないでしょうか。流産や切迫流産に至ることなく、元気な赤ちゃんを産みたいと考える妊婦さんが多いのではないでしょうか。
この記事では、前半で流産の種類や原因、治療法、後半で切迫流産について紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
流産は妊娠22週未満のあいだに胎児が失われた状態をいいます。一般的に流産という言葉を使うとき、自然流産を指します。流産の原因の多くは不明です。原因が分かるものについては、遺伝子や染色体の異常など赤ちゃん側の原因と、子宮の異常・病気・飲酒やタバコなどの母親側の原因があります。
特に、ハイリスク妊娠と呼ばれる状態では、流産の割合が高くなる傾向があります。
ハイリスク妊娠は、母親や胎児が病気になったり命を落としたりする可能性の高い妊娠のことです。また、出産前後に合併症になる可能性も高くなります。具体的なハイリスク妊娠の危険因子には以下のものがあります。
ハイリスク妊娠の中でも、高齢の女性に対しては新型出生前診断(NIPT)が行われる傾向にあります。新型出生前診断は、妊婦さんの血液中に含まれる胎児由来のDNAの断片を調べる検査です。検査は採血で行われるので、流産のリスクが殆どありません。
一方、新型出生前診断で陽性になった場合、確定診断のために以下の検査を受ける必要があります。
妊婦さんのお腹に針を刺し、羊水を採取して調べる検査です。羊水には胎児由来の細胞が含まれています。羊水検査の流産のリスクは0.3%あります。
羊水検査と同じく、妊婦さんのお腹に針を刺し、絨毛という組織を採取して調べる検査です。流産を起こすリスクは1%です。羊水検査よりも早い時期に検査が受けられますが、実施している医療機関が少ないという特徴があります。
ひとことで流産といっても、原因や時期によっていくつかの種類があります。ここでは流産の種類とそれぞれの原因や兆候についてみていきます。
流産には、自然流産と人工流産があります。それぞれの具体的な定義は以下になります。
妊娠が自然に中絶されることです。自然流産は妊娠している女性の15%に発生するため、誰にでも起こりうる流産といえます。自然流産が起きたとしても、ほとんどの場合、次回の妊娠で出産が可能です。
自然流産の原因は、妊婦さん側の原因と赤ちゃん側の原因があります。妊婦さん側の原因には、子宮の奇形や感染症、黄体不全、内分泌の病気があります。赤ちゃん側の原因は、遺伝子の異常によるものです。
とくに妊娠の早い段階で流産してしまう原因は、受精卵の異常など赤ちゃん側の原因であることが多くなります。卵子と精子が受精したときには、赤ちゃんが成長できる見込みがなく、流産の可能性が高いといえます。
自然流産が起きるときは、次の症状がみられます。
ただ上記の症状には個人差があり、妊娠時期によっては妊婦さんが自然流産に気づかないことも少なくありません。とくに妊娠1か月は次回の生理予定日と重なるため、自然流産の症状を生理前の症状によるものと判断してしまうことも多くあります。
妊娠22週前までに行う人工妊娠中絶のことをいいます。母体を保護する目的で、母体保護法という法律に基づき指定医によって行われます。人工流産の方法は妊娠週数によって異なります。
妊娠週数12週未満では、専門の器具によって子宮内の内容物を除去します。一方、妊娠12週から22週未満では、人工的に陣痛を起こします。後者の場合、死産届の提出が必要です。
人工流産は中絶手術によって行われますが、手術後にいくつかの症状がみられます。順にみていきましょう。
人工中絶手術では麻酔を使用するため、手術後に吐き気や嘔吐、頭痛などの症状がみられることがあります。手術後にみられる頭痛は、30分ほどして麻酔から覚めたら改善することがほとんどです。中絶手術後に吐き気や嘔吐があるときは、飲食を控えるようにしましょう。
また中絶手術が終わってから、生理痛のようなおなかの痛みがみられることがあります。とくに妊娠が進んでから人工中絶を受けると、子宮が元の大きさに戻ろうとするためです(子宮復古)。子宮復古にともない、産後の悪露(おろ)のような血液の排出がみられることがあります。
手術後の出血の程度は、個人差があり、出血が2日間あった人もいれば、少量の出血が次の月経までダラダラ続く人もいます。しかし、手術後の出血量が多い場合は、かかりつけの産婦人科医を受診するようにしましょう。
人工中絶手術後は身体的な症状のほかに、精神的な症状がみられることもあります。望まない妊娠により手術を選んだとしても、人工中絶により赤ちゃんを失ったことは、心にダメージを与えるものです。 人工流産後に気持ちが大きく落ち込んだり、イライラしてしまったりすることもあるでしょう。心の不調が続くときは、医療機関に相談することが大切です。
胎児の状態や流産による症状により、以下のものに分けられます。
子宮内で胎児が死亡していながら、出血や腹痛など症状がない流産です。稽留流産は、超音波(エコー)検査で赤ちゃんを確認できなかったり、前に聞こえいた心拍が聞こえなかったりした場合に診断されます。
稽留流産では、軽いお腹の痛みや茶色のおりものがみられることがあります。妊婦さんは特別な症状がみられないことも多く、妊婦健診で稽留流産について知らされ、大きなショックを受けられます。 原因で多いのは、染色体異常など赤ちゃん側の原因です。稽留流産と診断されると、1~2週間以内に子宮の内容物を取り除く手術が行われます。
胎児や胎盤の排出があり、流産が始まっている状態をいいます。すでに赤ちゃんが出始めているので、超音波(エコー)検査で、赤ちゃんや心拍を確認できない状態です。
進行流産の症状は出血と腹痛です。最初は少量の出血がみられますが、次第に子宮収縮が起こり、強い腹痛が現れます。お腹の痛みが強くなるのに従って、出血量も増えていきます。 妊娠中に鮮やかな出血や強い腹痛があるときは、すぐにかかりつけの産婦人科医を受診しましょう。進行流産では、子宮の内容物を除去する手術が行われますが、経過によっては自然排出を待つこともあります。
流産の進行具合によって、次の2つに分けられます。
胎児、胎盤など子宮の内容物が完全に出ている状態の流産です。ほとんどの場合、出血や腹痛の症状が治まります。完全流産に至るまでは、強い下腹部の痛みや出血がみられます。
完全流産後に出血がなく、子宮の内容物もすべて排出されている場合は、治療を行いません。その後は経過観察になりますが、再び強い痛みや出血がみられるときは、産婦人科を受診しましょう。
子宮の内容物の一部が排出して、残りが子宮内に残っている状態の流産です。超音波(エコー)検査では、子宮内で赤ちゃんやその心拍が確認できず、かつ出血や腹痛がありながら、子宮内の内容物が完全に排出されていない状態です。
不全流産では、陣痛のように強弱のあるおなかの痛みに強弱や、多めの出血がみられます。妊娠中は少量の出血やお腹の痛みがみられることもありますが、すぐに流産とはいえません。
出血が増えていたり、おなかの痛みが強くなっていたりするときは、早めに産婦人科医を受診しましょう。不全流産と診断された場合、手術で子宮の内容物を取り除きます。子宮内に内容物が残っていると、感染症や大量出血のリスクがあるためです。
不全流産では、子宮の内容物が自然に排出されるのを待つこともできます。しかし、急に出血や腹痛が起きたり、自然排出が起きずに手術になったりすることもあります。不全流産の対応については、医師によく相談しましょう。
ここでは、上記以外の分類に該当する併存する病態からみた流産について説明します。
細菌等が原因で子宮内の感染をともなう流産です。妊娠中の細菌やウイルスの感染が流産の原因になることがあります。感染流産は早期流産よりも後期流産の原因としてよくみられます。
子宮の中で感染が起こると、炎症物質である「プロスタグランジン」が産生され、子宮収縮を引き起こします。また白血球の一種である好中球の作用により、卵膜がもろくなったり、子宮頚管が柔らかくなったりすることで、流産を起こしやすくなります。
感染流産を引き起こす細菌の中には、妊婦さんの命にかかわるものもあり、厳重な管理が必要です。
流産を含めた、妊娠・出産歴は妊娠を管理するうえで重要なる指標です。妊娠・出産歴にまつわる流産には以下のものがあります。
自然流産のうち、2回流産を繰り返すことを反復流産といいます。前述の通り、反復流産の定義を構成する流産回数に化学流産は含まないことになっています。
反復流産の原因のほとんどは、おなかの赤ちゃんの染色体異常です。そのほか、妊婦さん側の原因として、ポリープや傷跡など子宮の異常や、全身疾患(甲状腺疾患・糖尿病・高血圧・慢性腎臓病など)があります。
とくに妊婦さんの持病に血液が固まりやすい病気がある場合、反復流産となることがあります。血液中に血栓ができることで、赤ちゃんに必要な栄養が届きにくくなったり、胎盤そのものがダメージを受けたりするためです。
流産を繰り返すほど、次回の妊娠も流産の可能性が高くなるという報告があります。したがって、反復流産の病歴のある方は、流産のリスクがないかどうかを検査することも大切です。
自然流産のうち、3回流産を繰り返すことを習慣性流産といいます。反復流産と同様、習慣性流産の定義を構成する流産回数にも化学流産は含まないことになっています。
一般に流産を繰り返す場合、不育症の可能性があります。不育症は、妊娠しても流産や死産となってしまい、出産に至らないことをいいます。
習慣流産の原因も、反復流産と同じように赤ちゃん側の原因とお母さん側の原因があります。習慣性流産の病歴がある方で、赤ちゃんの出産を望んでいる方は、不育症など流産のリスクを調べるための検査を受けることを検討しましょう。
流産が起こる時期や状態によって、以下のものに分けられます。
妊娠の早い段階で起こる流産です。妊娠5週未満で起こるため、尿検査や血液検査で妊娠反応が陽性になっても、超音波検査では妊娠が確認できません。
市販の妊娠検査薬を使用していない場合、化学流産を月経と捉える方も多くいます。そのため、日本産婦人科学会も化学流産を流産とは定義しない扱いにしています。
化学流産の多くは自覚症状がなく、「生理日がずれた」と感じる人も多くいます。化学流産が起きる原因は分かっていませんが、その多くは受精卵の染色体異常によるものです。
切迫流産とは、妊娠22週未満に、流産のリスクがある状態で、「流産の一歩手前」のことをいいます。『切迫〇〇』というのは『〇〇の一歩手前』という意味を表す医療分野の業界用語です。症状としては、出血やおなかの張りや痛み、もしくはその両方があります。
切迫流産については、治療によって妊娠の継続ができるため、 お母さんの体の安静を保つことや、子宮収縮の抑制などを行うことで、妊娠の継続に努めます。
日本産婦人科学会は、妊娠22週未満を流産、22週以降を死産と定義しています。
妊娠22週未満で胎児が母体外に娩出された場合、妊娠22週未満というのは胎児が母体外で生存不可能な時期であり、定義上、流産となります。
一方死産とは、胎児が子宮外で生存できる時期に達してから、死んだ胎児が娩出された場合のことを言います。
妊娠初期に妊娠検査薬で陽性になると、超音波(エコー)検査で「胎嚢(たいのう)」という赤ちゃんが育っていくためのお部屋が確認できます。胎嚢が確認できるのは妊娠5週頃ですが、妊娠5週を過ぎているのに超音波検査で子宮内に胎嚢が確認されないといった場合には流産が疑われます。
流産の区分について、妊娠5週以降12週未満の流産を早期流産、妊娠12週以降22週未満の流産を後期流産と言います。流産については、早期流産が圧倒的に多く、中でも胎児心拍が確認できる前の初期流産が多くを占めます。 流産の兆候や症状として、出血や下腹部の張りや痛み、もしくはその両方があります。しかしながら、自覚症状がなくても起こってしまうこともあります。
妊娠初期は、絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)という、 胎盤がついたところから出血するケースがあります。妊娠中に出血がみられた際は安静にし、早めに病院を受診しましょう。診察の結果、胎児が育っている場合は、安静を継続し、慎重に経過を追う方針で大丈夫な場合が多いです。
下腹部の張りや痛みを感じる場合、子宮の収縮による張りや痛みの可能性があります。お腹の痛みがいつまでも続いたり、強くなったり弱くなったりしているときは、かかりつけの産婦人科医を受診しましょう。
流産の症状がみられた場合、以下の検査が行われます。
超音波(エコー)検査で、子宮内容物が排出されていないか、または胎児が生きているかどうかを確認します。流産が起きて、胎児と胎盤が完全に体の外へ排出されている場合は、特に治療は行いません。
切迫流産のように、流産の一歩手前の状態である場合、妊娠を継続するために、定期的に医師による観察を行い、必要に応じて治療介入を行います。一般に、切迫流産では安静が推奨されています。
また、稽留流産や不完全流産のように、子宮内に胎児や胎盤の一部が残っている場合は、外科的手術によって子宮の内容物を取り除きます。
流産の原因について、赤ちゃん側に原因がある場合と、お母さん側に原因がある場合があります。
自然流産の場合は特定が難しく、赤ちゃん側に避けえない原因があることが多い、ということが知られています。
妊娠12週未満の早期流産の場合、原因は赤ちゃん、すなわち胎児側にあります。受精卵の染色体異常によるものが最も多く、早期流産の多くが胎児側の原因によるものになります。
妊娠12週以降の後期流産は、お母さんの感染症や子宮の異常によるものが多くなります。 子宮奇形、頚管無力症、黄体機能不全、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患などが理由として挙げられます。これらお母さんのリスクについては、習慣流産(流産を連続3回以上繰り返すこと)の原因としてもあげられています。
自然流産の場合は原因の特定が難しいことから、「100%予防できる」方法はありません。ただし、リスクを下げることができる行動はありますので、いくつかご紹介します。
流産の原因の一つに「絨毛膜羊膜炎」があります。膣からの細菌感染であるため、妊娠中に性交渉を行う際は、避妊具を使用する、デリケートゾーンを清潔に保つことで予防できます。
ストレスをなるべく避け、穏やかに過ごすようにしましょう。また、バランスのよい食事を摂取し、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの合併症の予防につとめましょう。
タバコ、アルコールは流産・死産や先天異常のリスクが高まります。タバコやアルコールの摂取は妊娠前にやめるようにしましょう。
タバコ、アルコールは流産・死産や赤ちゃんの先天異常のリスクを高めます。喫煙によって取り込まれる有害物質やお酒に含まれるアルコールは、胎盤を介しておなかの赤ちゃんにも届きます。
妊娠の希望がある人は、妊娠前からタバコやアルコールの摂取をやめるようにしましょう。これまでタバコやお酒が習慣になった人は、急に辞めるのが難しいかもしれません。禁煙や禁酒が難しいときは、医療機関に相談してみましょう。
流産にはいくつか種類があり、手術内容も異なります。
手術時間そのものは15~30分程度で終了します。手術後1~4週間は、不正出血がみられることがあります。無理のない程度に日常生活を送れるので、医師の指示に従いましょう。
流産は自然流産と人工流産に分けられます。自然流産の頻度は全妊娠の10~20%とされています。高齢出産では胎児の染色体異常が増えるため、流産の確率も高くなります。
非確定検査である新型出生前診断(NIPT)は、お母さんの血液から、流産の原因にもなりうる染色体異常の可能性を調べることができます。「採血」のみで検査ができることから、従来の出生前診断と比べてリスクが低いメリットもあります。
切迫流産の原因として、12週未満の切迫流産は、赤ちゃん側の染色体異常や、お母さんの内分泌的異常(黄体機能不全など)や代謝性疾患 (甲状腺機能異常)などが多いようです。
12週以降は感染や子宮頚管無力症、原因不明のものが増えます。
症状としては、出血、または子宮の収縮による、おなかの張りや痛み、もしくは出血、子宮収縮の両方の症状が見られます。
切迫流産の治療法として、基本は安静で、出血により安静度が異なります。出血がごく少量、もしくはほとんどなく、赤ちゃんに問題がない場合は、外出も良いとされています。一方、出血が多く、鮮血である場合、トイレ以外の動きは控え、シャワーも禁止し、清拭を行うこともあります。程度によっては入院し、子宮収縮などを抑える薬を使い、妊娠の継続を目指します。
自分ひとりの体ではないこと、リスクがあることを自覚し、こまめな休憩をとりながら、穏やかに過ごしましょう。
ほとんどの切迫流産は、正常な妊娠へ回復することができます。切迫流産で出血や腹痛がみられても、子宮口が開いているわけではないためです。妊娠22週未満に腹痛や出血がみられ、産婦人科を受診すると、多くの場合、切迫流産と診断されます。
妊娠中に切迫流産といわれると、パニックになってしまう妊婦さんもいるでしょう。切迫流産では、流産を念頭に置いた対処が行われます。ただ、入院する人もしない人も、多くの場合は安静にして経過観察にすることになります。
妊娠中の女性に流産が起きた場合、強い悲しみや罪悪感を抱いてしまうものです。記事内で説明したように、流産には母親側だけの問題の場合だけではなく、胎児側に避けえない原因がある場合が多いことが分かっています。とはいえ、母体側の原因による妊娠中の流産には気を付けながら毎日を過ごすようにしましょう。
胎児側の流産の原因は新型出生前診断(NIPT)で調べることもできます。
流産が心配な方は検査をして何を気を付ければいいかを事前に知ることができます。
足立明彦先生
赤十字病院副部長・国立大学非常勤講師。首都圏の徳洲会やセンター病院での勤務歴もあり。学歴:2003年 薬学部卒業、2007年 医学部卒業、2014年 大学院修了。取得資格:薬剤師、医師、博士(医学)、複数分野の専門医・指導医。
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