2020.10.02
出産
妊娠中は体調が目まぐるしく変化し、様々な症状に悩まされる方も多いと思います。その中でも妊娠すると眠くなるという方がいる反面、不眠でつらい思いをされている方もいらっしゃるかもしれません。今回は、妊娠時期別の不眠の原因と対処法について詳しく説明していきます。
妊娠期間は妊娠週数によって初期中期後期に分けられます。妊娠初期は、妊娠判明から13週6日まで、妊娠中期は14週0日から27週6日まで、妊娠後期は28週0日以降です。妊娠初期は、胎盤や赤ちゃんの身体が徐々に形成される時期で、身体の中で大きな変化が起こっていく大切な時期です。妊娠中期は、安定期と呼ばれ徐々に母子共に状態が安定する時期です。妊娠後期は、お母さんのおなかも大きくなり出産に向けての準備がはじまる時期です。
妊娠をすると高体温が続くことや分泌されるプロゲステロンというホルモンの影響で日中眠くなってしまうことがあります。日中に仮眠をとってしまうと夜の眠りが浅くなってしまい、徐々に昼夜逆転してしまうことがあります。
プロゲステロンという妊娠するために必要な女性ホルモンは、基礎体温を上げるという役割も担っています。プロゲステロンは排卵時に分泌が増えて基礎体温が高温期へと移行します。妊娠をしていない場合は、プロゲステロンの分泌が徐々に減少し月経と共に基礎体温は低温期へと移行します。しかし、妊娠している場合には、プロゲステロンの分泌がさらに増加し、高温期が続くため基礎体温が高いままになります。基礎体温が高いと、寝つきが悪くなったり寝苦しくなってりして睡眠の質が低下することがあります。
妊娠中は何かとストレスを感じて情緒不安定になりがちです。特に初めての妊娠の場合は、赤ちゃんが健康に育っているか、きちんとした親になれるか、など様々な悩みを抱えます。また、妊娠することによってプロゲステロンの分泌が増加します。このホルモンの影響でイライラしやすくなったりストレスを感じやすくなったりします。人はストレスにさらされると安眠を得ることが難しくなるので、妊娠初期には不眠になりやすいと言えます。
妊娠初期において夜に眠れない場合には、日中にあまり長く仮眠をとらないようにしましょう。どうしても眠たい時でも、仮眠時間は25分程度にとどめておきましょう。無理のない程度にお散歩やストレッチなど体を動かすことも大切です。とはいえ妊娠初期はまだ体が安定していないため無理はせず気分転換程度と考えておきましょう。
さらに眠るときに体の深部体温を下げることが重要です。深部体温を下げるためには、一度しっかりと体温を上げることが効果的と言われています。就寝の1時間程度前に、お風呂に入り湯舟に浸かって身体をあたためましょう。
また、ストレスは溜め込まないようにしましょう。パートナーや家族、友人などに不安な気持ちを打ち明けたり思っていることをきちんと表現するようにしましょう。寝る前にノンカフェインのハーブティー(赤ちゃんに影響のないタイプのもの)を飲むなどリラックス効果の高いことを試してみるのもよいでしょう。
妊娠中期には、エストロゲンが優位に作用します。エストロゲンが増加すると眠りが浅くなり寝つきが悪くなる可能性があります。
妊娠中期には、徐々にお腹が大きくなることで活動が不足して疲れが足りずに夜不眠になると言われることがあります。
妊娠中期は安定期に入りますので、少し活動の幅を広げてもよいでしょう。無理のない程度でマタニティヨガや散歩などを取り入れる方もいます。運動を行うことで、ほどよく疲れを感じることができ、気分転換にもなります。
妊娠後期になってくると、お腹が大きく出てくるため、なかなか安楽な体勢をとることができません。あおむけで寝ることや寝返りを打つことが難しくなるので、睡眠の質が落ちてしまいます。
大きくなった子宮に膀胱が圧迫されるため頻尿になり、夜間に中途覚醒してしまうことがあります。
お腹が大きくなることで胃が圧迫され徐々に食事をたくさん食べることができなくなってきます。さらに胎児へ栄養を送るのが優先されるため、せっかく摂った栄養も不足してしまいます。ミネラルのバランスが崩れると神経や筋肉が興奮し寝ている間にも腓返り(こむらがえり、腓腹筋痙攣)が起きてしまい中途覚醒してしまいます。
また、妊娠中は運動不足になりやすい上、お腹が大きくなることで下半身の血流が滞りやすくなります。血行不良になると下半身が冷えやすくなり、筋肉が固くなり収縮しやすくなるのも足が攣り易くなる原因です。
分娩が近くなってくると不安や緊張が増して眠れなくなることがあります。また、長い妊娠生活で様々な行動の制限や不眠状態の持続などが蓄積してストレスが溜まりがちです。それらのストレスが原因で不眠になることもあります。
妊娠後期は、お腹が大きくなるため睡眠時にいかに安楽な姿勢を保つかが大切です。仰向けに寝ると寝苦しいため、横向きになって寝るようにしましょう。特に左側を下にして膝を曲げて寝ると楽になりやすいです。抱き枕や産後に使用する授乳クッションなどを挟んで無理がない体勢になることがおすすめです。
また、少量しか食べられない分、栄養素にこだわった食事を摂取するようにしましょう。特にミネラルは不足しがちになるので、ミネラル分を多く含んだ食材を食べるのを意識すると良いでしょう。
妊娠中のすべての時期において大切なことは、適度な運動をして、バランスのよい食事を摂り、同じ時間に寝て同じ時間に起きるといった規則正しい生活をすることです。どれだけ寝不足であっても、同じ時間に起きて朝日を浴びることはとても大事です。
他に大切なことは、ゆったりとした気持ちで過ごすようにすることですお母さんの精神が安定していることが、胎児にとって非常に重要なことです。入眠前にはリラックスできるような温かい飲み物を楽しむなど、自分なりに気持ちが楽になる方法を探してみましょう。
また、眠れないと、つい携帯やパソコンなどを使用してしまいがちですが、ブルーライトは強い覚醒作用があるため、入眠環境では使用しないようにしましょう。
お母さんとお腹の中の赤ちゃんとでは基本的には睡眠のリズムが異なるため、お母さんが睡眠不足だからといって胎児も休めていないということではありませんし、眠れないことで赤ちゃんに悪影響があるのではないかとストレスを溜めることの方が余程よくないとされていますので、あまり気に病みすぎないようにしましょう。
妊娠中は、時期によって様々な理由により不眠になりやすいものです。充分に眠れないということは非常にストレスに感じるかもしれませんが、何よりも、大切な子どもをお腹の中で育てているお母さんの身体を労わってあげるのが大切です。
適度な運動、バランスの良い食事、規則正しい生活を送り、ストレスを溜め込まずに穏やかに過ごすことが重要です。お腹の赤ちゃんのために、自分ができる最善のことを行い少しでも快適な妊娠生活が送れるようにしていきましょう。
足立明彦先生
赤十字病院副部長・国立大学非常勤講師。首都圏の徳洲会やセンター病院での勤務歴もあり。学歴:2003年 薬学部卒業、2007年 医学部卒業、2014年 大学院修了。取得資格:薬剤師、医師、博士(医学)、複数分野の専門医・指導医。
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