2024.03.31
妊娠
妊娠中にお腹の赤ちゃんを育むのに欠かせない羊水。妊婦さんの中には、羊水の成分や役割について知らない方もいるのではないでしょうか。そこで、羊水の成分や役割について解説します。
羊水の働きについて詳しく知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
羊水とは、子宮にいる赤ちゃんの周りにある水分のことを言います。妊娠周期にもよりますが、羊水のほとんどは赤ちゃんのおしっこです。
羊水の色は、妊娠中期では透明な黄色で、妊娠後期になると、赤ちゃんの皮膚や皮脂(胎脂)が羊水内を浮遊するため、乳白色になります。
お産が近づいている破水は羊水と関連があることをご存知の方も多いでしょう。破水は陣痛が始まる際に卵膜が破れて、羊水が流れ出ることをいいます。テレビや映画では、妊婦さんに破水が起きているシーンで、羊水が勢いよく流れ出ている場面をよく見かけます。
実際には、卵膜が破れる位置によって、破水時の羊水の流出量が異なります。子宮口から近い部分の卵膜が破れると、羊水が勢いよく流れ出ます。一方、卵膜の上側が破れると、羊水がチョロチョロと流れます(高位破水)。高位破水の場合も、出産予定の産院に連絡しましょう。
羊水は妊娠週数とともに少しずつ増えていきます。妊娠初期では、羊膜やお腹の赤ちゃんからしみ出る血漿成分となります。
妊娠中期になると、羊水のほとんどが赤ちゃんの尿であり、その後も羊水の量は増えていき、妊娠32~34週には羊水の量が700~800mlになります。その後は少しずつ羊水が減っていき、分娩予定日には500mlまで減少します。
羊水には赤ちゃんの成長に必要な成分(成長因子)が含まれており、羊水を飲み込むことで、肺や腸から吸収します。妊娠初期の羊水の量はわずかでミネラル分が含まれています。
妊娠中期になり、赤ちゃん自身が羊水を作り出すようになると、栄養素も豊富に含まれています。妊娠中の赤ちゃんの成長には、胎盤やへその緒からだけではなく、羊水からも必要な栄養を摂取されています。
妊娠中に卵膜内を満たす羊水はさまざまな役割があります。ここでは、妊娠時の羊水の働きについてみていきましょう。
羊水には、外界からの衝撃を和らげる作用があります。この作用により、妊娠18~20週になると、胎動がみられるようになりますが、母体に直接伝わることはありません。
さらに、羊水のクッション作用は赤ちゃんの体温を一定に保つ働きがあります。羊水の温度は37度くらいですが、ママが発熱しても、羊水があることで、赤ちゃんの急激な温度上昇を防ぎます。
子宮内に羊水があることで、お腹の赤ちゃんが動き回るスペースができます。妊娠30週までは、赤ちゃんの動きが激しくなり、羊水の中でクルクル回る様子がみられます。
羊水により、胎動が可能なスペースを確保されることで、赤ちゃんの骨格や筋肉の発育を助ける役割もあります。
妊娠中期になり、子宮内の羊水が増えていくと、おなかの赤ちゃんは羊水を飲んで、おしっこを出すようになります(胎児循環)。
赤ちゃんは胎児循環により、肺の筋肉を鍛えることで、生まれた後の呼吸に備えているのです。
妊娠中の羊水は、妊娠週数に応じた量が保たれている必要があります。出産が近づくと、破水により羊水の量が減りますが、赤ちゃんの病気や胎盤の機能が低下することにより、羊水の量に問題が起こることがあります。
羊水過多症は、妊娠週数にかかわらず、羊水が800ml以上ある状態をいいます。赤ちゃんの消化管に異常があると、飲んだ羊水が腸からうまく吸収できません。また、ママが妊娠糖尿病により、赤ちゃんが巨大児になると、羊水過多がみられることがあります。
羊水過多症により、子宮内の容量が大きくなると、おなかの張り・呼吸困難・動悸・嘔吐・むくみの症状がみられるようになります。羊水過多症は切迫早産のリスクもあります。
羊水過多症の治療方法は入院による安静ですが、重症な例では腹部の穿刺による羊水除去が行われます。
羊水塞栓症とは、羊水が妊婦さんの血液中に流入することで起こる、肺血管の閉塞です。妊婦さんが羊水塞栓症を引き起こすと、血液の循環や呼吸の働きに障害が起こるため、母子の命に危険を及ぼします。
羊水塞栓症は分娩中に起こりやすく、死亡率は妊婦さんが6割、新生児が2割と高めです。特に、胎盤早期剥離や前置胎盤などの胎盤の異常や、頸管裂傷がリスクとなります。
羊水過少症は、羊水が少なすぎる状態をいいます。一般的には、妊娠後期の羊水が100ml未満の状態を指します。おなかの赤ちゃんの腎臓や尿管に問題があると、胎児循環(羊水を飲んでおしっこを出す)がうまく行きません。
赤ちゃんの腎臓に形態異常があったり、尿路が閉塞していたりすると、尿の量が少なくなります。また、陣痛が始まる前に破水する「前期破水」により羊水過少になることがあります。
羊水が少ないと、妊娠週数の割に子宮長が短めであったり、胎動が少ないと感じたりすることがあります。羊水過少症では赤ちゃんに腎臓や尿管に問題があることが多く、慎重に経過観察を行います。重症のケースでは、生理食塩水を注入する「羊水補充」が行われます。
羊水混濁とは、赤ちゃんの胎便により羊水が濁ることをいいます。妊娠中、赤ちゃんはへその緒を介して老廃物を排出するため、排便することはありません。
子宮内で赤ちゃんが低酸素などストレス状態になると、神経の刺激より腸の動きが活発なり、胎便が出ることがあります。前期破水で羊水混濁になっても、赤ちゃんの状態が良好であれば問題ありません。
一方で、お産中に羊水内に胎便が排出されすぎると、赤ちゃんの肺に詰まる可能性があります(胎便吸引症候群)。羊水混濁が生じても、自然分娩が可能ですが、赤ちゃんの状態によっては帝王切開になることがあります。
羊水検査は羊水中に浮遊している赤ちゃんの細胞や組織を採取して染色体を調べる検査です。羊水検査は出生前診断であり、妊娠16~18週頃に行われます。
検査ではお腹に針を穿刺するため、母体にもストレスがかかることから、流産の確率が0.3%あります(300人中1人)。
羊水検査の費用はおよそ10~20万円前後で、健康保険が適用されないため、全額自己負担になります。
羊水検査ではNIPT(新型出生前診断)の確定診断のために行われることがあります。NIPT(新型出生前診断)とは、妊婦さんの血液中に含まれる胎児のDNAの断片を調べる流産のリスクがない検査です。
検査自体は採血で行われるため、母子の体に大きな負担がかかりません。NIPT(新型出生前診断)により染色体異常が陽性となった場合、診断を受けるには羊水検査や絨毛検査を受ける必要があります。
羊水は妊娠中に赤ちゃんを育むのに欠かせません。羊水の異常は、お腹の赤ちゃんに異常が起きているサインであることがあります。時には羊水の役割や働きを思い出しながら、健康的な妊娠生活を送りましょう。
参考:
日本産婦人科医会/35.羊水過多
浜松医科大学/羊水塞栓症登録事業
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