2021.06.04
出生前診断
妊娠中の女性の中には、お腹の赤ちゃんがダウン症(21トリソミー)ではないかと気になっている人もいるかと思われます。
この記事では、ダウン症の特徴や原因、新型出生前診断(NIPT)を受けるときのポイントについて紹介します。
ダウン症は、21番目の染色体の変化によって起こる先天異常です。遺伝情報が含まれている其々の染色体は1対のペアになっており、2本ずつあるのが正常です。
細胞の核の中には、23対46本の染色体が存在しており、1~22番目の染色体を常染色体と呼び、残りの1対の染色体は性染色体と呼ばれます。
ダウン症は21番染色体が1本多い状態をいいますが、染色体の構造によっていくつかの種類があります。染色体の構造からみたダウン症の種類は以下のものがあります。
21番染色体が3本ある状態で、ダウン症の約93~95%を占めるタイプです。ダウン症は高齢妊娠との関連が指摘されていますが、母親の卵子だけでなく、父親の精子や卵子の染色体の不分離によって起こります。このうち、卵子の染色体の不分離による過剰な染色体は、8割を占めます。
21番染色体の一部が、他の染色体にくっついているタイプで、ダウン症全体の5%を占めます。転座型のダウン症には2タイプがあり、「ロバートソン転座」と「21q21q転座」があります。
ロバートソン転座は、13~15番・21~22番の染色体のうち、2本の染色体の短腕が切れて、その断片が結合することによって起こります。また、21q21q転座は2つの21番染色体の長腕がくっついていることで起こります。
正常な21番染色体を持つ細胞と、21トリソミーを持つ細胞が入り混じっているタイプで、ダウン症全体の2~3%を占めます。モザイク型のダウン症の場合、正常な細胞の比率が高いと、通常のダウン症よりも症状が軽くなることがあります。
ダウン症の多くは21トリソミーといわれるように、21番目の常染色体が2本ではなく、3本ある状態によって起こるものが95%を占めます。ダウン症の残りの5%は、21番目の染色体のうち過剰な部分が、他の染色体とつながっているケースを占めます(医学用語で「転座」といいます)。
トリソミーのように染色体の数が変化することは珍しいことではありませんが、21番・18番・13番以外の他の常染色体では多くの場合、妊娠の途中で流産となります。21トリソミーによるダウン症は、出生児にみられるトリソミーによる染色体異常の中でも、最もよくみられる先天異常です。
ダウン症で生まれたきた子どもは、身体の成長や心の発達がゆっくりである傾向があります。ここでは、ダウン症の子どもの身体や心の特徴についてみていきます。
ダウン症の子どもは頭が小さく、平坦な顔につり目や低い鼻を持ちます。耳の大きさは小さく、頭の低い部分についていることが多くなります。顔の筋肉の力が弱く、舌が大きい傾向にあるので、口を開けている傾向があります。
手は比較的に短く、手のひらに横1本のしわがよくみられます。ダウン症の子どもは、平均よりも身長が低く、肥満になりやすい特徴があります。また、ダウン症の赤ちゃんの半数は、心臓の病気を合併して生まれてきます。そのほかにも、胃腸の病気や難聴、視覚異常などがみられることがあります。
個人差はありますが、ダウン症の子どもの性格は大人しい傾向があります。ダウン症の子どもの知能には幅がありますが、健康な子どもよりも知能が低くなる傾向があります。言葉の発達にも遅れがみられたり、多動症などの症状がみられたりすることがあります。
個人差はありますが、ダウン症の子どもの性格は大人しい傾向があります。ダウン症の子どもの知能には幅がありますが、健康な子どもよりも知能が低くなる傾向があります。言葉の発達にも遅れがみられたり、多動症などの症状がみられたりすることがあります。 一方で、ダウン症の方の中には、音楽や絵画、書道などの芸術分野で活躍している方もいます。
ダウン症の合併症の種類や症状の程度は人によって異なります。ダウン症の合併症の中でも、頻度が高い疾患は以下になります。
例えば、十二指腸閉鎖や鎖肛は、生まれてすぐに手術が必要です。先天性疾患も早くに手術が必要になることもあります。ダウン症の診療は小児科が包括的に行うことが多いですが、合併症によっては専門診療の治療や手術を受ける必要があります。
ダウン症の合併症について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
ダウン症は700~1000例の出生当たり1人の割合でみられます。ダウン症は21番染色体が1本多いことで起こりますが、染色体異常が遺伝することは稀です。
ただ、両親の染色体に構造異常がある場合は、親の健康に問題がなくても、子どもがダウン症を引き起こすことがあります。両親のいずれかが転座染色体を持っている場合は、ダウン症の子どもが生まれるリスクが高くなります。 また、過去にダウン症の赤ちゃんを出産したことがある女性は、そうでない女性よりもダウン症の赤ちゃんを産む確率が2~4倍高くなります。
ダウン症の要因となる21トリソミーにある余分な染色体は、多くの場合、父親ではなく母親から受け継がれます。実際に、母親の妊娠年齢が高くなるほど、ダウン症の赤ちゃんが生まれる割合が高くなることが明らかになっています。一方、ダウン症の赤ちゃんの80%は、35歳以下の妊婦さんから産まれています。これは、35歳以下で妊娠する女性が多いためです。
母親の年齢 | ダウン症の発生率 |
20歳 | 1177人に1人 |
25歳 | 1040人に1人 |
30歳 | 700人に1人 |
35歳 | 295人に1人 |
39歳 | 112人に1人 |
41歳 | 66人に1人 |
43歳 | 38人に1人 |
45歳 | 21人に1人 |
とはいえ、若い妊婦さんからダウン症の赤ちゃんが生まれることもあれば、高齢妊娠でもダウン症の子どもが生まれないケースも多くあります。ダウン症の子どもの染色体異常は、父親から受け継がれたものもあります。
お腹の赤ちゃんがダウン症であることが分かったとしても、妊婦さん本人が自分を責める必要はありません。また、ダウン症の子どもが生まれた原因を誰かのせいにする必要もないでしょう。
ダウン症の赤ちゃんの多くは大人になりますが、平均寿命はダウン症でない子どもよりも短く55歳といわれています。お腹の赤ちゃんがダウン症であることが分かった時は、家族だけで抱え込むのではなく、社会資源を利用しながら支え合って、子どもを育てていくことが可能です。
日本には、ダウン症の子どもや家族に対するさまざまな支援制度があります。多くの支援制度は、自動的に受けられるものではなく、自治体での申請が必要です。なお、ダウン症の子どもの障がいの程度や、世帯の所得によっても受けられる支援が異なることがあります。
・療育手帳:知的障がいのある方。障がいの程度により4段階に区分されている。
・身体障害者手帳:ダウン症により、肢体不自由・心臓や消化器の障がい・視覚や聴覚の障がいのある方。障がいの程度により1~6級に分類されている。
・特別児童扶養手当:知的障がいや身体障がいのある子どもを持つ保護者に支給される手当。障がいの程度や保護者の世帯によって制限がある。
・障害児福祉手当:身体または精神に重い障がいを持つ子どもに支給される。
・小児慢性疾患医療助成制度:医療費が高額となりやすい特定の病気の治療費の助成制度。ダウン症の子どもの中でも、心臓や消化器、呼吸器に合併症がある場合に該当となることがある。
また、上記の公的補助の他にも、ダウン症の子どもの相談や療育訓練を提供している施設もあります。
・児童発達支援:未就学児が対象
・放課後デイサービス:学齢児が対象
いずれも、国や地方の施設だけでなく、NPO法人や一般企業が施設を運営していることもあります。学童期では特別支援学級や特別支援学校だけでなく、普通学級に在籍しながら支援学習を受けることもできます。どの学級を選ぶかは、卒業後の社会生活を想定して行う必要があります。
ダウン症の方の社会進出は、障がいの程度や健康の状態によって異なります。一般的に多いのは、通所授産施設での就労やパート労働です。近年では、一般企業への就職枠もありますが、本人の能力に合わせて職場を選択することが大切です。
責任のある仕事を任されることで、人間関係に問題を生じたり、本人の精神的なストレスも増やしたり原因になります。ダウン症の方の社会生活は、社会の一員として参加しつつ、無理のない範囲の仕事を選ぶのが適しています。
このように、ダウン症のような染色体異常の病気は、根本的な治療がないため、多くの方がハンディキャップを背負いながら社会生活を過ごしています。その一方で、ダウン症は他の染色体異常と比べると、認知度が広く、周囲のサポートを得られやすいといえます。
また少数ではあるものの、ダウン症を抱えていても健常者のように社会で活躍している方もいます。
ダウン症の子どもに対する支援制度について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
超音波検査(エコー検査)でも、ダウン症の可能性を知ることができます。超音波検査は妊婦健診でも行われますが、胎児ドックでは、より時間をかけてじっくり観察します。
妊娠11〜13週頃に行われる胎児ドックのエコー検査を受けた場合、以下の項目などからダウン症の可能性があるかを調べます。
お腹の赤ちゃんのうなじ部分が正常よりも厚くなっている場合は、ダウン症の可能性が高くなることが明らかになっています。一方で、後頚部の厚みに関する数値は、胎児の大きさや姿勢によっても変わることがあり、健康な赤ちゃんでも数値が高くなることもあります。
ダウン症の60~70%に、鼻骨が確認できなかったり、あっても鼻骨が小さかったりする例がみられています。ダウン症児の顔が平坦なのは、鼻骨の成長が遅いためです。ただし、鼻骨の低形成は健康な赤ちゃんの2%にもみられます。
新型出生前検査と同様に、エコー検査でダウン症の可能性が分かった場合も、確定診断のためには羊水検査などを受ける必要があります。
お腹の赤ちゃんが繋がっている臍の緒から妊婦さんの心臓までにある血管(動脈血が流れている静脈管)の流れを測ります。静脈管の逆流はダウン症児の65%にみられますが、健康な赤ちゃんにもみられることがあります。
お腹の赤ちゃんの心臓の右上部分から右下部分に流れる血流を測ります。ダウン症児は心臓の病気を抱えていることが多く、三尖弁という弁の部分に血液の逆流がみられることがあります。なお、健康な赤ちゃんでも、三尖弁の部分に血液の逆流がみられることがあります。
このように、健康な赤ちゃんでも胎児ドックのエコー検査で異常がみられることがあるため、エコー検査の結果で異常がみられても、お腹の赤ちゃんがダウン症と確定するわけではありません。
エコー検査でダウン症の可能性が指摘された場合は、精密検査を検討してみましょう。
赤ちゃんがダウン症かどうかは、出生前ではエコー検査での、出生後では外見上での、身体的特徴から可能性を判断することができます。
おなかの赤ちゃんがダウン症かどうかを知る方法に、新型出生前診断(NIPT)があります。新型出生前診断は妊婦さんから採血を行い、お腹の赤ちゃんの染色体異常の可能性を調べる検査です。
新型出生前診断は日本医学会の認定を受けた認定施設と、そうでない認定外施設で受けることができます。
いずれの施設でも、ダウン症(21トリソミー)かどうかを調べることができますが、認定施設で検査を受ける場合は、妊婦さんの年齢や精神状態など、下記のいずれかの条件を満たす必要があります。
なお認定施設(基幹施設・連携施設)であるからといって保険診療となる訳ではなく自費診療であることに変わりはありません。
認定施設での条件に満たない方でも、お腹の赤ちゃんがダウン症かどうかを知りたい場合、これらの制限がない認定外施設を受診される方が増えています。
新型出生前診断(NIPT)をはじめとする出生前診断は、お腹の赤ちゃんの健康の異常をいち早く知ることで、出産や育児に向けた準備が可能になることです。
新型出生前診断でダウン症(21トリソミー)の項目が陽性になった場合、確定診断を受けるためには、羊水検査などの確定検査を受ける必要があります。検査結果が陽性になった後に、人工妊娠中絶を選択する方も少なくありません。
常識的な心構えとして、あらゆる検査や診断について言えることですが、受ける前の段階から、結果が陽性になった時にどうするかを考えておくように心掛けましょう。
ダウン症は21番目の染色体の数や形の異常によって起こる先天異常です。お腹の赤ちゃんのダウン症(21トリソミー)の可能性を知りたい方は、新型出生前診断を検討してみるとよいでしょう。
参考:
足立明彦先生
赤十字病院副部長・国立大学非常勤講師。首都圏の徳洲会やセンター病院での勤務歴もあり。3児の父。Mosaic Trisomy 児の子育て経験からNIPTおよびトリソミーに詳しい。学歴:2003年 薬学部卒業、2007年 医学部卒業、2014年 大学院修了。取得資格:薬剤師、医師、博士(医学)、複数分野の専門医・指導医。
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