2025.10.26
出生前診断

妊娠中に「9週の壁」や「12週の壁」という言葉を耳にして、いつどんなリスクがあるのか不安に感じることはないでしょうか?
妊娠の壁を正しく理解することで、各時期に適した過ごし方や栄養管理ができます。
そこで、この記事では、妊娠中の方へ向けて妊娠の壁の時期や流産・早産のリスクを安全に乗り越えるための過ごし方について解説します。妊娠生活の参考としてみてください。

妊娠の壁とは、流産や早産のリスクが変化する節目の時期を指す言葉です。
この言葉は医療現場で使われる正式な用語ではありません。妊婦さんやそのご家族の間で、特に注意が必要な時期をわかりやすく伝えるために広まった表現です。
たとえば、「妊娠9週の壁」「妊娠12週の壁」といった表現は、妊婦さんを励ましたり注意を促したりする意味で使われています。
各週の妊娠の壁を理解して不安を少しでも軽くし、前向きに妊娠生活を送るための道しるべとして活用しましょう。
妊娠の壁は一般的に6つあるとされています。
妊娠初期には9週、10週、12週の壁、妊娠中期以降には22週、28週、32週の壁があります。それぞれの壁には、赤ちゃんの発育やリスクの変化に関する意味があります。
これらの壁を知ることで、各時期のリスクを正しく理解し、医師に相談すべきタイミングを判断できるようになります。
各週の壁について、詳しく見ていきます。
妊娠7週から9週は流産率がもっとも高い時期です。妊娠6週から7週で心拍が確認できても、妊娠9週の健診で心拍が停止しているケースがあります。
流産の原因の多くは染色体異常によるもので、妊婦さんの生活や行動とは関係ありません。妊娠9週頃はつわりのピークを迎える人が多い時期でもあり、心身ともに不安を抱えやすいでしょう。
妊娠10週は赤ちゃんの主要な臓器の土台がほぼ完成し、体の大きさが3cmを超える時期です。
3cmを超えると流産率が低くなるといわれていることから、妊娠10週の壁という言葉が使われています。
流産のうちの多くが妊娠12週未満に起きています。妊娠12週を境に、流産は早期流産と後期流産に分類されます。
妊娠12週までの流産の主な原因は赤ちゃんの染色体異常や遺伝子病とされています。
妊娠12週を過ぎると流産のリスクが大きく減少することから、この時期以降を安定期として扱う場合もあります。職場への妊娠報告は、一般的に妊娠12週から16週頃が推奨されています。ただし、体調や仕事内容によっては、それよりも早く報告することが望ましいでしょう。
日本では妊娠21週6日までの出産は流産、妊娠22週0日以降の出産は早産と区別されます。
妊娠22週0日を過ぎると、もし早産になってしまった場合も、新生児医療により赤ちゃんが助かる可能性が出てきます。この時期から、赤ちゃんの肺サーファクタントと呼ばれる出生後の呼吸に必要な物質が産生されます。肺サーファクタントとは、肺を膨らませるために必要な物質です。
NICU(新生児集中治療室)の管理のもとで生存率が上がってきます。ただし、この時期の赤ちゃんはまだ非常に小さく、早く生まれるほど重い障害が残る可能性も高くなります。
妊娠28週以降は、早産になっても赤ちゃんが生存できる確率が高いといわれています。
ただし、生存できても後遺症が残る恐れはあるため、引き続き注意が必要です。
妊娠32週以降に生まれた赤ちゃんは、たとえ早産になっても正期産で生まれた赤ちゃんの成長に追いつけるとされています。
この週数を境に、早産で生まれた赤ちゃんの予後が大きく改善することから、妊娠32週の壁と呼ばれています。

妊娠期間を初期、中期、後期に分けると、それぞれの時期で注意すべきリスクや体調変化が異なります。
各時期の特徴を理解することで、適切な対応ができるでしょう。
妊娠初期の流産の多くは胎児の染色体異常が原因です。妊娠初期の流産を阻止するのは非常に難しいといわれています。
染色体異常は妊婦さんの行動とは関係がないと考えられており、もし流産となっても自分を責める必要はありません。
この時期はまだ胎盤が発達しておらず、母体の影響が胎児に伝わりにくいとされています。ただし、妊娠がわかったら喫煙や飲酒は避けるようにしてください。
妊娠中期を過ぎると安定期と呼ばれますが、切迫早産などのトラブルに見舞われることもあります。
切迫早産の原因として子宮内感染、多胎妊娠、高齢出産、子宮頸管無力症、子宮筋腫など子宮の病気や異常、ライフスタイルの乱れなどがあります。
お腹の張りや規則的な痛み、出血などの症状があれば、すぐに医師に相談しましょう。切迫早産の兆候を見逃さないことは、母子の健康を守るために欠かせません。
妊娠後期は大きくなった子宮や女性ホルモンの影響で、むくみや便秘、頻尿などのマイナートラブルが妊娠中期よりも強くなります。
子宮が骨盤の中いっぱいに大きくなり、下半身の血液やリンパ液が上半身に戻りにくくなるため、むくみやすくなります。また、大きくなったお腹により腰痛や恥骨痛を感じる方も増えるでしょう。
子宮によって膀胱が圧迫されて頻尿になったり、血液の量が増えることで腎臓で作る尿の量が増えます。出産が近づくと、お腹の張りを感じる頻度も増えていきます。

妊娠の壁を安全に乗り越えるためには、日常生活での過ごし方が重要です。
下記のポイントを意識することで、母子ともに健康な妊娠生活を送ることができるでしょう。
それぞれ詳しく見ていきます。
妊娠中の食事の基本は、主食・主菜・副菜を揃えた、バランスのよい食事を1日2回以上食べることです。
妊娠中、特に重要な栄養素に葉酸があります。葉酸を摂取することで赤ちゃんの神経閉鎖障害や無脳症の発症を防ぐことができます。また、妊娠中は血液量が増えるため、鉄分摂取を心がけましょう。
つわりで十分な食事がとれない場合は無理せず、食べやすいものを選んでください。数日から1週間で全体の栄養バランスをみて、無理なく過ごしていきましょう。
定期的な妊婦健診を受けることで、母子の健康状態を確認できます。
妊婦健診では超音波検査や血液検査などを通じて、赤ちゃんの発育状況や妊娠経過を確認します。異常の早期発見につながるため、必ず受診しましょう。
体調が良くても、健診は先延ばしにせず予定通り受けることが大切です。気になることがあれば、遠慮せず医師に相談してください。
妊娠期は、ホルモンのバランスも崩れストレスもたまりがちな時期です。
ストレスが蓄積すると、体調不良や睡眠障害につながることがあります。趣味の時間を持ったり、リラックスできる環境を整えたりすることが大切です。
家族やパートナーとコミュニケーションを取り、サポートを得ることも欠かせません。一人で抱え込まず、周囲に助けを求めてください。
妊娠中の喫煙は、胎盤への血流量を低下させ、胎児に大きな悪影響を及ぼします。
喫煙は流産、死産、先天性異常などのリスクが考えられます。飲酒は赤ちゃんの脳の発育を阻害する胎児性アルコール症候群のリスクを高めます。
妊娠中は完全に禁煙・禁酒してください。パートナーや同居家族にも協力を求め、受動喫煙を避けることが大切です。
重いものを持つと、お腹に負担をかける恐れがあります。
特に妊娠中期以降はお腹が大きくなり、バランスを崩しやすくなります。買い物など日常生活では、重い荷物を避けるか、家族に協力してもらいましょう。
上の子どもを抱っこする場合は、無理のない範囲で行ってください。お腹の張りを感じたら、すぐに休むことが重要です。
過度な運動は、転倒リスクが高まって危険なだけでなく、母体に大きな負担をかけます。
ウォーキングやマタニティヨガなど、適度な運動は推奨されています。ただし、激しいスポーツや身体が接触するスポーツは避けてください。
運動を始める前には必ず医師に相談し、お腹の張りを感じたらすぐに中止しましょう。体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。
熱いお風呂に長時間入ることは、母体への負担になります。
お風呂の温度は38度から40度程度のぬるめに設定し、長湯は避けましょう。長湯はのぼせや脱水症状を起こす恐れがあります。
入浴中にお腹の張りやめまいを感じたら、すぐにお風呂から上がって休んでください。体調が優れないときは、シャワーで済ませるのも良いでしょう。
細菌感染によって起こる絨毛膜羊膜炎は、流産リスクを高める恐れがあります。
性行為の際はコンドームを使用し、感染症を予防することが大切です。お腹が圧迫される姿勢は避け、お腹の張りを感じたらすぐに中止しましょう。
医師から安静の指示が出ている場合は、性行為を控えてください。不安があれば、遠慮せず医師に相談することをおすすめします。

妊娠の壁を安全に乗り越えるためには、各時期に適した栄養を摂取することが重要です。妊娠期間は母体と赤ちゃんの状態に応じて3つの時期に区分されます。
それぞれの時期で必要な栄養素や推奨される摂取量が異なります。適切な栄養管理により、母体の健康維持と胎児の順調な発育をサポートできるでしょう。
妊娠の壁を栄養面からサポートするポイントは下記の3つです。
それぞれの時期について詳しく説明していきます。
| 時期 | 推定エネルギー必要量 | タンパク質追加量 | 鉄分追加量 | 特に重要な栄養素 |
|---|---|---|---|---|
| 妊娠初期(〜13週6日) | +50kcal/日 | 0g | +2.5mg/日 | 葉酸 |
| 妊娠中期(14週0日〜27週6日) | +250kcal/日 | +5g/日 | +15mg/日 | タンパク質・鉄分 |
| 妊娠後期(28週0日〜) | +450kcal/日 | +25g/日 | +15mg/日 | タンパク質・カルシウム |
参考:厚生労働省|妊婦・授乳婦
妊娠初期は胎児の神経系が形成される重要な時期です。この時期に必要な栄養素は下記の通りです。
それぞれ詳しく説明していきます。
葉酸は妊娠初期で最も重要な栄養素です。胎児の神経管閉鎖障害リスクを低減させる効果があります。
妊娠初期は胎児の細胞増殖が盛んになる時期です。この時期に葉酸が不足すると、胎児に神経系の先天性障害が起こりやすくなるといわれています。
厚生労働省も妊娠初期には葉酸サプリメント(400μg/日)の摂取を推奨しています。ほうれん草、ブロッコリー、アボカドなどの食品にも葉酸は含まれています。つわりで食事が困難な場合は、医師に相談の上、サプリメントで補うことを検討しましょう。
参考:厚生労働省|妊娠前からはじめよう健やかなからだづくりと食生活Book
妊娠初期の推定エネルギー必要量は妊娠前と比べて+50kcal/日です。極端な食事量の変化が必要なわけではありません。おにぎり半分程度の追加で十分です。
ただし、鉄分は+2.5mg/日の追加が推奨されています。鉄分が不足すると貧血や疲労感の原因になります。
赤身肉、レバー、納豆、小松菜などから鉄分を摂取しましょう。つわりで食事が取れない時期は、無理をせず食べられるものを少量ずつ食べることが大切です。
妊娠初期はビタミンAの過剰摂取に注意が必要です。過度に摂取すると先天性奇形の発生頻度が高まると報告されています。
レバーやうなぎなどビタミンAを多く含む食品の継続した大量摂取を避けることが重要です。特にレバーは少量でも多くのビタミンAを含むため、週に1回程度に留めましょう。
サプリメントを使用する場合も、ビタミンAの含有量に注意してください。妊婦用として適切に配合されたものを選びましょう。
妊娠中期は胎児の成長が加速する時期です。つわりも落ち着き、食事が取りやすくなる時期でもあります。
この時期に必要な栄養素は下記の通りです。
それぞれ詳しく説明していきます。
妊娠中期ではタンパク質+10g/日を追加することが推奨されています。タンパク質は胎児の体を作る重要な栄養素です。
肉、魚介、卵、大豆製品といったさまざまなタンパク源から積極的にとるようにしましょう。例えば、卵1個で約6〜7gのタンパク質が摂取できます。納豆1パックで約7〜8gのタンパク質が含まれています。
バランスよく摂取することで、必要なアミノ酸を確保できます。動物性と植物性のタンパク質を組み合わせることが理想的です。
妊娠中期の推定エネルギー必要量は+250kcal/日となります。妊娠初期よりも多くのエネルギーが必要になる時期です。
250kcalはおにぎり1〜2個分、またはバナナ2本程度のエネルギー量に相当します。胎児の成長に伴い、母体も多くのエネルギーを必要とします。
ただし、質の良いエネルギー源を選ぶことが大切です。精製された砂糖やジャンクフードではなく、玄米や全粒粉パンなどの複合糖質を選びましょう。
妊娠中期では鉄分+15mg/日を追加することが推奨されています。鉄分が不足すると、貧血や疲れやすい体になるだけでなく、赤ちゃんに必要な酸素や栄養を届けられなくなります。
赤身肉、レバー、あさり、納豆、小松菜など鉄分が豊富な食材を意識して取り入れましょう。ビタミンCと一緒に摂取すると、鉄分の吸収率が高まります。
食事だけで十分な鉄分が摂取できない場合は、医師の指導のもと鉄分サプリメントの使用を検討することも有効です。
妊娠後期は出産に向けて最も多くの栄養が必要になる時期です。胎児の成長が最も速く、母体の負担も大きくなります。
この時期に必要な栄養素は下記の通りです。
それぞれ詳しく説明していきましょう。
妊娠後期ではタンパク質+25g/日の追加が推奨されます。妊娠期間中で最も多くのタンパク質が必要になる時期です。
鶏むね肉100gで約20〜25gのタンパク質が摂取できます。豆腐1丁(300g)で約15〜20gのタンパク質が含まれています。
胎児の体重が急速に増加する時期であり、十分なタンパク質が必要です。妊娠後期になると胃が子宮に圧迫されるため、一度に多くの量を食べられなくなります。食事の回数を増やすなど工夫して、必要な栄養をしっかり摂りましょう。
妊娠後期の推定エネルギー必要量は+450kcal/日となります。胎児の成長が加速し、母体の負担も大きくなる時期です。
450kcalはおにぎり2個とバナナ1本程度のエネルギー量に相当します。この時期はすぐに満腹になったり、一度に食べられる量が少なくなったりします。
少量ずつ栄養価の高い食品を選ぶことがポイントです。食事量が減っても栄養は十分に必要なため、医師に相談しながらサプリメントを活用することも検討しましょう。
妊娠後期になると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクも高まります。塩分、糖分、脂肪分のとりすぎに注意しましょう。
ジャンクフードやお菓子を控え、低カロリーで栄養が豊富なものを取り入れることが大切です。塩分の過剰摂取はむくみや高血圧の原因になります。糖分の摂りすぎは妊娠糖尿病のリスクを高めます。
野菜や果物、全粒穀物を中心とした食事を心がけましょう。適度な運動と併せて、体重管理にも気をつけることが重要です。
妊娠の壁は、多くの妊婦さんが経験する重要な節目です。9週、12週、22週、28週、32週などの各時期には、それぞれ異なるリスクや注意点があります。
しかし、これらの壁を正しく理解し、適切な対処をすることで安全に乗り越えられます。栄養バランスの取れた食事、定期的な妊婦健診、ストレスの少ない生活を心がけることが大切です。
特に各時期に必要な栄養素を意識して摂取することで、母体と赤ちゃんの健康をサポートできます。不安なことがあれば、一人で悩まず医師や助産師に相談しましょう。
妊娠の壁を理解し、適切なケアを行うことで、健やかな妊娠生活につながるでしょう。
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