2020.10.02
その他
お腹の子どもがダウン症候群と診断された場合、実際に生まれてからの生活について不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。どのような生活になるのか、特別な育児が必要であるのかなど分からないことが多くあると思います。特に今後の生活に必要不可欠な食事に関しては、離乳食をどのように進めていけばいいのか、気を付けなければならないことは何かを知っておく必要があります。今回は、ダウン症候群乳幼児の離乳食の開始と気を付けることについて詳しく説明していきます。
ダウン症候群は22対の常染色体の21番目が通常2本のところ3本と1本多く存在することで様々な症状が引き起こされる疾患です。700人に1人の発生頻度で、心疾患や消化器疾患、筋肉の緊張低下や発達の遅れなどの症状がみられます。母親の出産年齢が高ければ高いほど発生頻度は増加するため、近年結婚年齢、出産年齢の上昇が続いている先進国では増加傾向にあります。
2011年以降は、採血のみで母体の血液中に含まれる胎児のDNAの断片から先天性疾患を調べることができるNIPT(新型出生前診断)によって、お腹の中の子どものダウン症候群の有無が容易に分かるようになりました。事前に先天性疾患の有無を知っておくことで、出産後の生活の準備や心の準備をすることができます。
様々な症状を合併するダウン症候群ですが、医療や療育が進んだことで寿命は延び、多くの人は普通に学校生活や社会生活を送っています。そのため、出生後の生活で最も重要な1つの食事について正しい知識を持ち離乳を進めていく必要があります。
ダウン症候群の合併症はその子によって様々起こりますが、筋肉の低緊張と精神発達の遅れは共通して起こります。また、ダウン症児の特徴的な顔つきとして上あごが小さいことも挙げられます。これらの特徴からダウン症児は離乳食を開始するタイミングと食事の形態の移行のタイミングを適切に見極めることが大切です。
通常離乳食を開始する時期としては、首のすわりがしっかりとしていて寝返りができることや座位が自立できること、スプーンなどを口の中に入れても舌で押し出さないこと、食べ物に興味を示すことなどの目安が示されています。そして多くの子は生後5~6か月ごろに離乳食の開始時期がきます。
ダウン症候群の子どもは成長がゆっくりですので離乳食開始時期も遅くなる方が多いです。しかし、重要なのは開始時期を遅らせることよりも、徐々に食事の形態が普通食へ近づいた時にきちんと噛んで飲み込む動作ができるかどうかです。ダウン症児は全身の筋肉の低緊張から舌を口の中にしまって口を閉じるのが難しく、なかなか嚥下ができないという子もいます。食べ物の固さに応じた口の動かし方を正しく習得できず、結果的に食べ物を丸のみしてしまう子もいます。このようにならないために、開始時期だけでなく食事の形態を少しずつ移行していく時期を見極めましょう。
ダウン症候群の子どもには離乳食を開始させるための条件が整うまでに時間がかかる子もいます。離乳食開始前の早い時期から食べ物を使わずに舌を口の中にしまって口を閉じる練習をしておくことが重要です。
ダウン症候群の子どもの離乳食の進め方として1番重要であるのは、月齢で判断して進めないということです。育児本には月齢を参考に、離乳食の形態を徐々に普通食へと移行していく方法が載せられていますが、ダウン症児は月齢をものさしにして離乳食を進めていくと、食事の形態に口の動きがついていかず丸のみすることが癖づいてしまいます。丸のみには消化不良や窒息のリスクがありますので、その子の口の動きや嚥下の様子をしっかりと観察して離乳食を進めていく必要があります。
離乳食の開始時期については条件があり、その子の成長に合わせて開始するのがよいとされています。しかし、離乳食とはそもそも全く食事を経験したことがない子どもに、口に食べ物を含んで噛んで食べ物をまとめて飲み込むという一連の動作を少しずつ練習させるためのものです。開始時期を遅らせて学習の機会を失わせるよりも、まずは口の中にドロドロの形状のものを入れることから始めていきましょう。ダウン症児は、全身の筋肉の低緊張から哺乳瓶での哺乳が難しい場合があり、むしろ口からの摂取の方が食べやすいということもあります。はじめは、上手に口を閉じて飲み込むことができなかったとしても、新しい経験をすることで刺激され感覚や運動機能の発達が促されることになります。
ダウン症児の離乳は、ゆっくりと進むものと考えておきましょう。飲み込むことにも時間がかかりますし、食事の形状を徐々に固くするのも通常よりも時間がかかることが多いです。それでも、焦って離乳食を完了させようとすることのメリットは何もなく、その子のペースや口周辺の機能の成長に合わせて進めていくことが大切です。
離乳食を進めるうえで気を付けることは、食事が楽しいことであることを教えることです。ダウン症児は、口の中に食べ物を取り込むことがゆっくりで、焦りが生まれだんだん親も子も余裕がなくなってきてしまうことがあります。ゆっくりとしたペースが、この子のペースなのだということを受け入れて楽しい雰囲気の中で食事をすすめていきましょう。親がピリピリしていたり、焦って食事をすすめようとすると拒食となってしまうこともあるので気を付けましょう。
食事の形態を子どもの成長やペースを無視して移行していかないことも重要です。まずはドロドロとした形状のものから徐々に固形のものへと移行させていきますが、自分で口の中へ食事を取り込み、口の中で処理をして飲み込むという基本的な動作ができることを確認してから次の形態へ移行させるようにしましょう。この基本動作を習得できないままに固いものを食べさせると丸のみしてしまい、消化不良や窒息だけではなく食べすぎで肥満や生活習慣病へとつながってしまうこともあります。ダウン症児は、上下の乳歯が生えそろう3歳頃に咀嚼機能ができあがってくると言われているので、離乳食の完了は3歳すぎを目安に考えておくとよいでしょう。
また、ダウン症児にはストローは使わないようにしましょう。ストローを使うとお乳をのむときと同じような反応で吸ってしまいます。口の周りの筋肉や神経の発達のために水分はスプーンやコップで飲むように促しましょう。
ダウン症児は筋緊張の低下などから、上手に座ることができなかったり抱っこの間も大人しくしてくれなかったり、なかなか離乳食が進まないこともあるかもしれません。お行儀よく食べるようになるまで時間がかかることもあります。しかし、その時間もその子の成長には必要な時間です。無理に座らせよう、お行儀よく食べさせようとするのではなく、その行動1つ1つが子どもの成長に必要なことなのだと考えるようにするとよいでしょう。
NIPT(新型出生前診断)によって、妊娠中に容易に先天性異常の有無が分かるようになりました。ダウン症候群は先天性異常の中でも頻度の高い疾患ですが、近年は医療や療育の発展に伴い寿命が延び健常な人と変わらない生活を送ることができます。
ダウン症候群の人は様々な合併症を持っていますが、その中でも筋肉の緊張低下や精神発達の遅延は日常生活に大きな影響を与えます。人間の生活の中で必要不可欠の食事についても同様で、乳幼児期の離乳食の進め方について困惑することもあるかもしれません。しかし、ダウン症児の離乳食の進め方について何か特別なことがあるのではなく、その子のペースに合わせて進めていくこと、進み方はゆっくりであるが確実に成長していくため焦る必要はないことを理解しておくことが重要です。ゆっくりでも着実に基本的な嚥下を習得していくことで、生涯にわたる食習慣を身につけることができます。
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