2022.05.09
出生前診断
皆さんは「保因者スクリーニング検査」という言葉をご存知でしょうか?欧米では長い歴史があり、様々なリスクを推定することが可能な検査の一つである保因者スクリーニング検査。今回は「保因者」や「スクリーニング検査」という言葉の意味から、検査の対象者や診断時期、検査を受けたあとまで、なるべく分かりやすく説明しました。保因者スクリーニングを迷っている、気になっている方や知りたい方の参考になりましたら幸いです。
保因者スクリーニング検査は、別名:キャリアスクリーニング検査と言われることもあり、多数の疾患遺伝子をチェックする検査です。具体的な説明の前に、まずは「保因者」と「スクリーニング」の用語の解説を行います。
保因者とは、「疾患(病気)の遺伝子や染色体をもち、子どもに遺伝する可能性がある人」を指します。ただし、保因者自身が現在病気であったり、体調が悪いかというとそうではなく、あくまで自分は正常、もしくは通常の人とほとんど変わりませんが、子どもに病気の遺伝子や染色体が遺伝する可能性がある人を指します。
※保因者とは様々な意味で使用されます。体内にウイルスがあっても発症しない人のことを指す場合もありますが、今回は遺伝的保因者と言われるものについて説明しています。
スクリーニング、スクリーニング検査とは、病気になる可能性がある、発症する可能性がある、すでに病気である可能性を調べる検査になります。
私たち人間は、2本で1組(1対)の染色体(ゲノム)を持っています。カップルや夫婦が同じ遺伝子に変異を持つ場合、25%の確率で子どもが発症します(ホモ接合の発症者)。
保因者スクリーニング検査の対象者は、子どもを持つことで発症する遺伝子疾患をチェックしたい方が主に挙げられます。具体的には、以下のような夫婦・カップルが挙げられます。
前述したように、一般的に保因者は基本的に健康です。保因者スクリーニング検査をしない場合、自分が保因者であるということを知らない方も多いと思います。自分が基本的に健康で、病気や障害のある子どもが生まれた場合、突然変異で生まれてくるように感じますが、実際、保因者スクリーニング検査をしてみると、両親が保因者だったと発覚する場合もあります。
保因者スクリーニング検査は、通常妊娠をする前に「保因者」であるかどうかをスクリーニングする検査であるため、スクリーニング検査で保因者であると判明した場合、今後どのような選択をするのか、遺伝カウンセリングを提供することが多いです。
現在、医学の進歩により、スクリーニングできる疾患遺伝子は数百種類とも言われています。この数百種類の遺伝子の中には、命に関わる病気や、自立した日常生活を送ることが難しいような重篤なものから、そうではないものまで幅広く、また治療法が確立されていないものや、そもそも病気なのか、病気の定義がはっきりしないものまで様々含まれています。
保因者スクリーニング検査を受けたのち、夫婦やカップルの選択肢や行動としては以下のようなものが挙げられます。
保因者であると発覚した場合、自分が保因者であることに罪悪感を感じる方も多くいます。今後どのような将来設計を行うかなど、心理的負担を多く抱える方もいらっしゃいます。そういった方のためには、保因者であることの告知と合わせて、正しい情報提供や継続的な相談、心理的支援の援助などを行います。
これまで保因者スクリーニング検査はメジャーだったのでしょうか?保因者スクリーニングの歴史についてお話します。
結論から申しますと、保因者スクリーニング検査は、長い歴史がある国と、そうでない国があります。
保因者スクリーニングに長い歴史を持つのは欧米です。
例えば、ヨーロッパ系ユダヤ人(アシュケナージ)やフランス系カナダ人の集団では、テイ・サックス病の発症頻度がきわめて高いことが知られています。
そこで、以前より保因者スクリーニングを積極的に行うことで、病気の発生数が大幅に減少しました(※①)。
私たち日本人に多いとされる病気も、保因者スクリーニングにより同じようにリスクを推定することが可能です。日本では現在、保因者スクリーニングはそれほど馴染みがありませんが、将来的にはNIPTの次に遺伝子検査として大々的に導入、普及する可能性もあります。
現在、国内で普及しているNIPT(新型出生前診断)検査ですが、赤ちゃんの染色体由来による先天性疾患を調べることができます。DNA先端医療株式会社のNIPTに年齢制限はなく、夫婦同伴でないと検査が受けられない等の制限もありません。
検査内容は「採血のみ」とこれまでの出生前診断である「羊水検査」や「絨毛検査」のように流産や感染症のリスクを心配する必要なく、お母さんや赤ちゃんへの負担は最小限で、安心して受けることができます。
保因者スクリーニング検査の対象者は、自分が保因者であるかを調べたい、子どもを持つことで発症する遺伝子疾患をチェックしたい方で、具体的にはパートナーが既に保因者であると判明している場合や、家族や近親者に遺伝性疾患を持っている方がいる場合などが挙げられます。
保因者であると発覚した場合、今後の将来設計についての悩みや、心理的負担を多く抱える方もいらっしゃいます。正しい情報提供や継続的な相談、心理的支援の援助などを行うことで、夫婦やカップルが納得のいく選択ができるよう、サポートを行います。
参考文献:
①室月淳、出生前診断と選択的中絶のケア: 日常診療で妊婦・家族ときちんと向き合うための基本がわかる、メディカ出版、2021
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