2022.08.26
出生前診断
DNA鑑定では、DNAマーカーを解析して個人識別や親子関係を調べます。DNAマーカーの中にはいくつか種類があり、どのような違いがあるのか気になっている人もいるのではないでしょうか?ここの記事では、DNAマーカーについて解説します。DNA鑑定を検討している人はぜひ参考にしてみてください。
生物の遺伝情報は、細胞の核の中にあるDNAの配列によって決まります。DNAはヌクレオチドと呼ばれる分子が連結して構成されており、糖・リン酸の他に、アデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T)の4種類の塩基から成ります。
よく耳にする「遺伝子」はDNAの特定の領域の塩基配列のことで、タンパク質を合成するために設計図に当たります。DNAの遺伝情報は、父親と母親から受け継ぎ、遺伝子情報を子孫に伝える役目があります。
その一方で、タンパク質合成のためにDNAをコピーする際に変異を起こすことがあり、生物がさまざまな環境に対応できる多様性を持つことにもつながっています。
個体間の違いを調べることができる、特定のDNAの配列をいいます。DNAマーカーは、遺伝子マーカーや遺伝マーカーと呼ばれることがあります。
遺伝情報を伝えるDNA配列ですが、同じ種の生物間ではその大半が一致します。例えば、人間のDNAは30億もの塩基配列から成り立っており、99.7%のパターンは同じです。
そのため、DNA鑑定で個人を識別するのに、すべてのDNA配列を調べるのは相当な労力が必要になります。
DNAマーカーでは特定の遺伝子の領域を調べることで、効率的に個人識別や肉親関係の有無を調べられます。以降では、DNA親子鑑定で用いられるDNAマーカーについてみていきます。
DNAの中には、ある短い塩基配列が繰り返し並んでいる領域があります。具体的な例でみると、「(AACG )(AACG)(AACG)」といった具合です。遺伝子の中でも、同じ塩基配列が複数回から10回繰り返すものを「STR(ショートタンデムリピート)」といいます。
特に、DNA親子鑑定では、STRの違いを調べることで、肉親かどうかを調べることができます。DNAは二本の鎖状となっており、子どものDNAマーカーは、母親と父親からそれぞれ1本ずつ受け継ぐためです。
STR法を用いても、100人に1人の割合で他人同士が一致する可能性もあります。このような場合は、2つのSTRマーカーを用いることで、1002にあたる1000人に1人の割合で個人識別の精度を上げることができます。
またDNAマーカーのSTR法では、解析結果を数値で確認することができます。この数値は、人の確認によるものではなく、解析ソフトによる判定値であるため、公平な結果を得られるメリットがあります。
さらにSTR法は低コストで、検査が短時間であるのも特徴です。このことから、アメリカのFBIの犯罪者のDNAデータベースの作成にもSTR法が用いられています。
解析ソフトを用いるSTR法では、公平で客観性のある数値を確認することができます。その一方で、解析装置や試薬によっては偏りがみられることもあるため、正確性が100%であるとは限りません。
解析ソフトの設定を少し調整すると、異なる結果になることもあります。このため、解析ソフトが示すDNA型が、適切かどうかは人が判断しなければいけないことがあります。
DNAの塩基配列のうち、特定の塩基が他の塩基に置き換わっている領域のことをSNP (Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)といます。分かりやすく説明すると、元の配列「AAGT」であるのが、変異により「AACT」になっているという具合です。
SNP法はDNA親子鑑定の主なマーカーのひとつです。
SNPは塩基の置き換わりのあるDNAマーカーなので、突然変異による誤った結果判定のリスクが低いメリットがあります。
また、短い断片のDNA解析にも使用できるので、妊娠中のDNA親子鑑定のように、DNA量が十分でないサンプルを鑑定するのにも適してます。
SNP法はSTR法と比べると、より多くのDNAマーカーを解析しなければなりません。そのため、STR法よりも検査時間やコストがかかる傾向があります。
1985年、イギリスで発表されたDNA鑑定の礎となる検査方法です。MLP法では、短い塩基の繰り返しである「ミニサテライト」を解析します。人間には30億あるゲノムのうち、数千か所にミニサテライトがあるといわれています。
ミニサテライトもまた塩基配列であるため、母親と父親の両方から受け継がれています。MLP法では、10から数十の特定の遺伝子の部位のミニサテライトを解析することから、「マルチ・ローカス・プローブ法」と呼ばれています。
一卵性双生児を除けば、故意に選んだ2人の男女から、こどものミニサテライトが一致することはまずありません。このように、MLP法は人間の指紋のように判別できることから「DNA指紋法」とも呼ばれいます。
MLP法は、人種や民族に関係なく利用できます。そのため、データベース化がされていない人種や民族にも検査対象とすることができます。
MLP法で正確な鑑定結果を出すのには、経験とテクニックがいるといわれています。また実際にDNA鑑定をするには、ダメージのないDNAの断片を多く必要とします。
そのため親子鑑定には優れていますが、犯罪捜査における個人識別には適していません。また解析には熟練の専門家の力が必要なので、検査費用が高額になります。
MLP法がDNAの複数の特定の遺伝子の場所を解析するのに対して、1つの部位のみ解析するのがSLP法(シングル・ローカス・プローブ法)です。
SLP法はMLP法と比べて、分析が簡単に行えるメリットがあります。検査方法が単純であるため、画像解析による自動分析も可能です。
SLP法は1つのミニサテライトを調べるので、複数のミニサテライトを調べるMLP法と比べると、個人識別の能力が劣ります。また、SLP法もまたMLP法と同様に、解析には熟練の専門家の力が必要であることから、検査費用が高額になります。
DNA鑑定に用いるDNAマーカーには、上記で紹介した方法以外にも色々あります。親子鑑定など一般の人でも受けられるDNA鑑定では、簡便でコストがかからないDNAマーカーが用いられる傾向があるようです。DNA親子鑑定を選ぶときは、使用するDNAマーカーにも注目してみるのもよいでしょう。
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