2024.06.05
妊娠
妊娠中は通常時と比べ貧血になりやすい状態です。今まで貧血になったことのない人でも、妊娠中に貧血と診断される場合もあるでしょう。そこで、妊婦さんが貧血になりやすい理由や、妊娠中に摂取したい1日の鉄分摂取量と食事内容についても紹介します。
食事は身体を作る基本となり、毎日の積み重ねが重要です。記事を読むことで、妊娠中に貧血が起こりやすくなる仕組みや、貧血予防のための食事のポイントについて理解を深められます。
もともと貧血気味の女性は多いですが、妊娠によって新たに貧血と診断される人も少なくありません。妊娠により、めまいやふらつき、立ちくらみなど、貧血のような症状が出る人もいるでしょう。
妊娠中は普段と身体の状態が異なっているため、必要とされる栄養や量も変化します。以降では、妊娠中の貧血の特徴や妊婦さんにみられやすい貧血の特徴をみていきます。
妊婦さんに認められる貧血の総称を「妊娠貧血」と呼びます。妊婦貧血はすべての妊娠の20%程度にみられます。そのため、決して妊娠中に貧血になることは珍しいことではありません。
妊娠貧血かどうかを見る上で重要な指標となるのが、ヘモグロビン(Hb)とヘマクリット(Ht)です。ヘモグロビンは赤血球に含まれており、酸素を運ぶ役割があります。ヘマクリットは、血液中に含まれる赤血球の割合を示しています。
ヘモグロビンやヘマクリットの数値が下がると、貧血の症状が現れます。日本産科婦人科学会では、妊娠貧血を以下のように定義しています。
いずれの検査項目も血液検査で調べることができます。妊婦健診でも定期的に検査しているので、妊婦さんもヘモグロビンやヘマクリットの検査数値を確認してみましょう。
妊婦さんが貧血になりやすくなる原因には、循環血液量の増加や鉄分不足が挙げられます。ここでは、それぞれの原因について詳しくみていきます。
妊娠すると、妊婦さんの身体の循環血液量は少しずつ増加していきます。出産が近づく妊娠32週(妊娠9ヶ月)頃には、約1Lもの循環血液量が増加します。これは、妊娠していない時と比べると、循環血液量が40~45%増えていることを意味します。
妊娠により循環血液量が増えるのにともない、血液を構成する赤血球や血色素も約30%増加しています。しかし、妊娠中期から妊娠後期にかけては、循環血液量が急激に増えるようになります。 その結果、赤血球・血色素の増加が追いつかず、血液が薄い状態になりやすいため、貧血の症状がみられやすくなります。
妊婦さんにみられる貧血の中で最も頻度が多いのは鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血は、妊婦貧血の77~95%を占めると言われています。
妊娠中は赤ちゃんの成長のために鉄の必要量が増加します。成人女性の鉄保有量は約2,000mgと言われていますが、妊娠すると、身体に貯蔵されている鉄がお腹の中の赤ちゃんの鉄需要によって減少します。これが妊娠中に鉄棒性貧血になりやすい2つ目の理由です。
葉酸が欠乏すると息切れや脱力感などの症状が見られ、葉酸欠乏性貧血となります。葉酸とはビタミンB群の一種で、血液をつくる上で重要な役割を担っている栄養素です。
葉酸は性別、年齢問わず重要な栄養素ですが、妊娠中は特に必要とされています。葉酸欠乏性貧血としての対策はもちろん、葉酸が妊娠中に重要とされているのは神経管閉鎖障害のリスク低減のためです。
「神経管閉鎖障害」とは妊娠初期である妊娠4週目から12週目頃に発生する先天異常の一つです。神経管がうまく作られない状態で、二分脊椎や無脳症となります。
神経管閉鎖障害の対策においては、「妊娠前」からの葉酸摂取が重要になります。具体的には、妊娠1か月以上前から妊娠3か月までの摂取に努めましょう。
特に、妊娠前から妊娠初期の葉酸摂取で推奨されているのが、サプリメントの利用です。例えば、「日本人の食事摂取基準」では次のように記載されています。
妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400µg/日摂取することが望まれる。
日本人の食事摂取基準
妊娠中に貧血となると、おなかの赤ちゃんの健康への悪影響があります。妊婦さんの貧血が重度である場合、胎児死亡のリスクがあります。また、赤ちゃんが小さく生まれる「低出生体重児」の頻度が高いと報告されています。
さらに、妊娠貧血により、妊婦さんが産後うつの要因になったり、母乳の出に影響があることが指摘されています。妊娠貧血の主要な原因である鉄欠乏性貧血は、妊婦さん自身の食生活に起因するものです。
以降では、妊娠中に必要な鉄分摂取量についてみていきます。
貧血にはいくつか種類がありますが、妊婦貧血の中で最も頻度が多いのは鉄欠乏性貧血です。貧血予防、対策として妊娠中に摂取したい1日の鉄分必要量を紹介します。
妊娠中は胎児の鉄需要により貯蔵鉄が減少します。妊娠前と比較し、1日4.0mgの鉄分を余分に摂取する必要があります。妊娠中の鉄分の必要量は、妊娠初期の場合1日8.5mg程度、妊娠中期・後期は21.0mg程度が推奨されています。
鉄は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けられ、ヘム鉄は主に動物性食品、非ヘム鉄は植物性食品に含まれています。ヘム鉄と非ヘム鉄では、以下のように体内での吸収率が異なります。
上記のように、鉄分は栄養素の中でも吸収率が低く、吸収率が高いといわれるヘム鉄でも上記の数値になります。妊娠中は鉄分の必要量が増えることから、ヘム鉄を中心に鉄分が豊富な食品を意識して取ることが大切です。
ここでは、鉄分や葉酸が含まれている食べ物をみていきましょう。
ヘム鉄は、赤身肉、レバー、カツオ、あさり、しじみなどに多く含まれます。主な食品の鉄分の含有量が以下です。
食品(g) | 鉄分量 |
豚レバー(50g) | 6.5㎎ |
鶏レバー(50g) | 4.5㎎ |
あさりの水煮缶詰(30g) | 11.3㎎ |
あさりの佃煮(30g) | 5.6㎎ |
ヘム鉄が豊富な食品にはレバーがあります。レバーは下処理が必要ですが、レバ刺しや炒め物など、食事のおかずにも使いやすい食品です。
しかし、妊娠初期はレバーの取り過ぎないようにしましょう。レバーには、ヘム鉄に加えて、ビタミンAも豊富に含まれています。ビタミンAは体の健康に必要な栄養素ですが、妊娠初期に過剰に摂取すると、おなかの赤ちゃんの奇形を引き起こす原因になります。
鉄分以外にも言えることですが、必要な栄養素の摂取を意識するときは、1つの食品に偏るのではなく、さまざまな食品から万遍なく取るようにしましょう。
非ヘム鉄は、植物性食品に含まれています。非ヘム鉄が豊富な食品には、小松菜、春菊、ほうれん草、豆乳、納豆、大豆などがあります。ここでは、非ヘム鉄を含む主な食品の鉄分量をみていきましょう。
食品名 | 鉄分量 |
大豆(国産)(30g) | 9.4㎎ |
干しひじき(10g) | 5.5㎎ |
切り干し大根(20g) | 1.9㎎ |
ほうれん草(50g) | 1.8㎎ |
インゲン豆(30g) | 1.8㎎ |
非ヘム鉄の吸収率はヘム鉄と比べて高くないものの、食事の中で取りやすい食品が多く含まれています。非ヘム鉄を含む食品と組み合わせながら、ヘム鉄が豊富な食品も取り入れてみましょう。
葉酸はその名前から葉物野菜に含まれているイメージがありますが、植物性食品だけでなく動物性食品にも含まれています。葉酸が豊富な職人には、焼海苔、レバー、わかめなどの海藻類、ブロッコリー、ほうれん草、枝豆、大豆などがあります。
鉄分を摂取するには、紹介した食品を食べる以外にもさまざまな方法があります。食品からの鉄分摂取が難しい人は、以下の方法を取り入れてみてください。
鉄分の摂取を増やすには、鉄製の調理器具を使用する方法があります。鉄のフライパンや鉄瓶など、鉄から作られた調理器具を使うと、鉄が溶け出し鉄分を吸収することができると言われています。
鉄分を積極的に摂取したい場合は、鉄製のフライパンや鉄瓶を使用するのもよいでしょう。
食事からの鉄分摂取が難しい人は、必要に応じてサプリや栄養補助食品を利用するのも1つです。もともと日本人女性は、普段から鉄分の摂取が不足しているといわれています。
そのため、妊娠中に鉄分の必要量を摂取するのは難しいと考える人もいるでしょう。近年では、妊婦さんに向け鉄分と葉酸が含まれているサプリメントもあります。
ただ、サプリメントや栄養補助食品は、あくまで食事で不足している栄養素を補うものです。摂取する際は適切に摂取することが大切です。また、持病がある人は、医師の指示に従って摂取しましょう。
鉄分をサプリメントで取るときは、過剰摂取に注意する必要があります。サプリメントや栄養補助食品などにより、鉄分を取りすぎると、体に必要以上の鉄が蓄積されるようになります。
鉄分の過剰蓄積が起こると、さまざまな器官や組織に損傷を引き起こす「ヘモクロマトーシス」になります。ヘモクロマトーシスは、肝臓・すい臓・心臓・皮膚・精巣など、体の部位に鉄分が沈着するため、さまざまな症状が起こります。
食品に含まれる鉄分は吸収率がそれほど高くないため、過剰摂取につながることはほとんどありません。しかし、サプリメントで鉄分を摂取すると、場合によっては過剰摂取につながる恐れがあります。
鉄分は不足しやすい栄養素であるため、摂取を増やそうという人も多くいます。鉄分のサプリメントや栄養補助食品を使うときは、取りすぎに注意することが大切です。
鉄分を効率よく摂取するには、鉄分の吸収を促す栄養素を一緒に取ることもポイントです。タンパク質やビタミンC、クエン酸には鉄分の吸収を促す作用があります。上記3つの栄養素は、以下の食品に多く含まれています。
果物の中にはビタミンCとクエン酸を同時に摂取することができます。人によっては、ビタミンCとクエン酸を混同している人もいるかもしれません。ビタミンCは酸っぱい栄養素のイメージがありますが、実際に酸っぱいのはクエン酸によるものです。
例えば、果物にはビタミンCとクエン酸が含まれているものでは、酸っぱい味がします。反対に、ビタミンCは含まれていて、クエン酸が含まれていない野菜では、酸っぱい味はしません。
妊娠中の貧血対策のためには、ヘム鉄、非ヘム鉄、葉酸を多く含む食べ物と一緒に、タンパク質やビタミンC、クエン酸を含む食品も一緒に摂るようにしましょう。
食品に含まれる栄養素や成分の中には、鉄分の吸収を促すものだけでなく、分の吸収を阻害するものもあります。鉄分の吸収を阻害する成分が食物繊維とタンニンです。
特に、タンニンはコーヒーや紅茶、緑茶などに含まれている渋みの成分です。鉄分が多い食事を摂取しても、タンニンの含まれるコーヒーや紅茶、緑茶を摂ると、鉄分の吸収が妨げられてしまいます。
特に食事摂取から1時間以内にコーヒーなどを摂取すると、鉄分の吸収が阻害されます。コーヒーや紅茶、緑茶などは1時間以上時間をあけてから飲むようにしましょう。
妊娠中は貧血になりやすく、全妊娠の20%が妊娠貧血になると言われています。妊娠貧血の中でも多いのが鉄欠乏性貧血で、妊娠初期で1日8.5mg程度、妊娠中期・後期は21.0mg程度の鉄分摂取が推奨されています。
鉄分には動物食品由来のヘム鉄と植物性食品由来の非ヘム鉄があります。また、鉄分に加えて、妊娠初期に欠かせない葉酸や、鉄分の吸収を助けるタンパク質やビタミンCなどの成分もあります。
記事内で紹介した食品を中心に、1つの食品に偏らずにバランス良く摂取することが大切です。妊娠中は十分な鉄分摂取を目指して、貧血を予防していきましょう。
【引用・参考文献】
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