2021.11.29
妊娠
妊娠中の方や、妊娠を希望している方の中には、子宮外妊娠(異所性妊娠)について気になっている人も多いのではないでしょうか?子宮外妊娠について何となく知っていても、どのような症状やリスクがあるのか知っておくことが大切です。
この記事では、子宮外妊娠の症状や原因、治療法について解説します。
通常、精子と卵子が出合って受精卵となり、受精卵が子宮内膜に着床すると妊娠の成立となります。一方で、受精卵が子宮内膜ではなく、他の場所に着床した妊娠を子宮外妊娠といいます。子宮外妊娠は、すべての妊娠のうち約1~2%の頻度で起こります。
子宮外妊娠の多くは卵管妊娠ですが、そのほかにも受精卵が着床した部位ごとに、卵巣妊娠・頸管妊娠・腹腔妊娠などの種類があります。
子宮外妊娠ではなく、異所性妊娠という言葉を耳にしたことがある人もいるかもしれません。異所性妊娠とは子宮外妊娠のことで、両者に違いはありません。
2009年に日本産婦人科学会で、子宮外妊娠を「異所性妊娠」に統一することが決定されました。そのため、医療機関の公式サイトでは子宮外妊娠ではなく、「異所性妊娠」が用いられている傾向があります。
本記事では、広く認知されている「子宮外妊娠」を用いていきます。
子宮外妊娠では、受精卵が子宮内膜に着床していないため、赤ちゃんが十分に育つことができません。
また、正常な妊娠では受精卵が子宮内膜に着床し、おなかの赤ちゃんの成長とともに、子宮も伸展していきます。しかし、卵管など子宮以外の部位は子宮ほどの伸展ができないため、胚が大きくなるに従って、周りの組織を圧迫して破裂するリスクがあります。
子宮外妊娠により妊婦さんが卵管破裂を起こすと、出血が大量となり、妊婦さんがショック状態に陥り命にも危険が及びます。このように、子宮外妊娠の診断後は早めの対応が必要になります。
受精卵の元となる精子と卵子は卵管で出合い、受精卵となった後、細胞分裂を繰り返しながら、卵管を移動して子宮にたどり着きます。
卵管は漏斗状の形をしており、排卵期に卵巣から排出された卵子を卵管采がキャッチします。受精卵は卵管で発育に必要な物質を得ながら、卵管の内側を覆う腺毛運動や、卵管そのものの蠕動運動によって、卵管内を移動します。
子宮外妊娠は、受精卵がうまく移送できなかったり、卵管の環境に原因があったりすることで起こることが分かっています。
直接の原因ではないものの、喫煙は子宮外妊娠のリスク因子です。喫煙は上記の卵管での働きを抑制する作用があるため、子宮外妊娠のリスクを高めます。
体外受精は不妊治療のひとつで、排卵直前に卵子を取り出し、シャーレの中で精子と受精させて育てた後、子宮内に戻す方法です。体外受精は、子宮外妊娠の頻度が1~3%上がることが分かっています。
子宮外妊娠の中でも頻度が多いのが卵管妊娠です。卵管での移送が上手くいかない因子には、卵管の感染や炎症があります。
特に、性病のひとつであるクラミジア感染症は卵管妊娠の大きなリスクとなります。クラミジア感染症にかかると、炎症が子宮から卵管へ広がっていくため、卵管に閉塞や癒着ができるためです。
さらに、子宮内膜症もまた卵管妊娠のリスクを高める病気です。子宮内膜症は子宮以外の部分に、子宮内膜と似ている細胞が月経周期に合わせて増減する病気です。子宮内膜症が卵管に起こると、組織に炎症や癒着を起こすため、卵管妊娠の原因となることがあります。
子宮外妊娠は全体の妊娠の1%の確率でみられます。また、体外受精では確率がさらに高くなり、5%の頻度で子宮外妊娠がみられます。
体外受精では、採卵により取り出した卵子をシャーレ内で精子と受精させます。その後、受精卵を3日ほど培養して胚に分化させた状態で、女性の子宮内に戻します(初期胚移植)。体外受精の初期胚移植では、移植胚が卵管に輸送される可能性が指摘されています。
一方、胚の分化を進んだ状態である「胚盤胞」を移植する胚盤胞移植では、初期胚移植よりも子宮外妊娠になる確率が低いことが明らかになっています。
子宮外妊娠になると、以下のような症状がみられます。
子宮外妊娠では、おなかの赤ちゃんが大きくなってから症状がみられると考える人もいるでしょう。実際には子宮外妊娠の症状は妊娠の初期からみられます。
子宮外妊娠で症状がみられてくるのが妊娠7週頃です。この時期の赤ちゃんは胎芽と呼ばれる状態で1㎝ほどの大きさですが、周りの組織を圧迫して破裂を起こす危険があります。子宮外妊娠により卵管破裂や腹腔内破裂が起こると、以下の症状がみられます。
このように、子宮外妊娠による卵管破裂は妊娠初期にみられます。卵管破裂は妊婦さんが命を落とす危険もあります。特に、妊婦さんが妊娠について自覚していないと、誤診につながり必要な医療処置を受けられないこともあるでしょう。 妊娠の可能性がある人で上記の症状がみられている人は、医療機関を受診するようにしましょう。
子宮外妊娠と正常な妊娠では、共通の症状や状態がみられます。ここでは、子宮外妊娠と正常な妊娠の共通点や違いについてみていきます。
子宮外妊娠は異常な妊娠ですが、妊娠していることには変わりありません。そのため、子宮外妊娠でも正常な妊娠と同じように生理が訪れません。生理による月経血は、妊娠に備えて厚くなった子宮内膜が剥がれることで起こります。
ただ、子宮外妊娠でも出血やお腹の痛みがみられることがあります。出血やお腹の痛みは生理でもよくみられる症状です。そのため子宮外妊娠で少量の出血があったり、お腹の痛みがあったりしても、生理による症状と勘違いして、妊娠に気づくのが遅くなることもあります。
特に、月経不順で普段から不正出血がみられていれば、子宮外妊娠の症状に気づきにくいものです。不正出血がみられたら、産婦人科を受診するようにしましょう。
子宮外妊娠は異常な妊娠ですが、妊娠はしているため月経が止まります。妊娠をすると、胎盤から「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンが分泌されます。
市販の妊娠検査薬は、尿中に含まれるhCGを調べることで、妊娠しているかどうかを調べます。そのため、子宮外妊娠でも妊娠検査薬が陽性になります。妊娠検査薬はあくまで妊娠の有無をチェックするためのものなので、子宮外妊娠であるかどうかを調べることはできません。
子宮外妊娠でもつわりがみられることがあります。つわりは、妊娠によるホルモンバランスや代謝の変化によって起こる症状で、妊婦さんの半数から約8割にみられます。
早い人では妊娠5~6週目につわりがみられます。一方で、子宮外妊娠の症状による悪心をつわりと勘違いすることもあるかもしれません。
セックスのパートナーがいて、つわりがある人は妊娠の可能性があります。つわりをきっかけで「妊娠かも…?」と感じたら、そのまま放置するのではなく、早めに産婦人科を受診しましょう。
子宮外妊娠は診断が難しい病気のひとつです。産婦人科の妊娠の診断では、尿検査でhCG量を確認した後、超音波検査(エコー)で子宮内に赤ちゃんの基である胎嚢があるかどうかを調べます。
赤ちゃんの基である胎嚢が確認できるのは妊娠5週目頃です。尿検査で妊娠反応が出た後に、子宮内で胎嚢を確認できなければ、子宮外妊娠の可能性を考慮して検査を継続します。
子宮外妊娠の診断はベテランの産婦人科医でも難しいといわれています。早い段階で、子宮外での着床を超音波検査で確認するのは難しいためです。
正常な妊娠でも、尿検査で妊娠反応があっても、妊娠5週に子宮内で胎嚢がみられないことが多くあります。例えば、排卵が遅れていると胎嚢のサイズも小さく、超音波検査で確認しにくいためです。
また、妊娠初期は自然流産も多く、何らかの原因で早い段階で赤ちゃんが亡くなることもあります。赤ちゃんが亡くなっていると、胎嚢が育たないため、超音波検査で確認することができません。
妊娠5週目以降に、尿検査で妊娠反応があるのに、超音波検査で胎嚢が確認できないとき、1週間後にもう一度検査を受ける必要があります。胎嚢がある程度の大きさになれば、子宮外で確認できることもあるでしょう。 それでも診断がつかない場合は、腹腔穿刺などで子宮外妊娠による出血がないかを調べます。
子宮外妊娠では、胎嚢が正常に発育するケースと発育が十分でないケースがあります。子宮外妊娠で胎嚢が発育すると、破裂して出血のおそれがあります。また、子宮外妊娠で胎嚢があまり発育せずに流産しても、内容物が体内に残ることもあり、感染を引き起こす原因となります。
ここでは子宮外妊娠と診断されたときの治療についてみていきます。
子宮内膜以外に着床した胎嚢が自然吸収されるのを待つ方法です。hCGの数値が上昇せずに、継続して低下がみられる場合は、待機療法が選択されることがあります。
抗がん剤として使用されている「メトトレキサート(MTX)」を投与する治療法です。子宮外妊娠の症状がない例や、症状があっても軽い例が対象となります。日本では保険適用の治療ではありません。
動脈塞栓術は、動脈内に細い管を挿入して動脈を塞ぐ薬を入れる方法です。頸管妊娠や帝王切開に関連した子宮外妊娠で行われます。
子宮外妊娠が卵管膨大部に起きた場合は、腹腔鏡手術により、子宮外妊娠が起きている部位を取り除きます。卵管破裂などにより、卵管の損傷が著しい場合は、開腹手術が行われます。
将来の妊娠・出産の希望がある場合は、子宮外妊娠の部位によっては卵管を温存できる場合があります。卵管を切除したり縫合したりしても、妊娠する確率に差はありませんが、子宮外妊娠を繰り返すことがあります。
なお、将来の妊娠・出産の希望がない場合は、卵管切除が行われます。
子宮外妊娠の可能性について気になっている人の中には、どのくらいの費用がかかるのか心配になっている人もいるでしょう。
手術費用はアプローチによってことなりますが、開腹手術は保険適用前で約14万円、腹腔鏡下手術では約23万円かかります。手術後は数日から1週間の入院が必要になります。腹腔鏡下手術は費用が高めになりますが、入院日数が短い特徴があります。
1日の入院費の平均は2万円ほどです。入院日数にもよりますが、子宮外妊娠で入院すると、自己負担額が10~20万円ほどになります。ただ、1ヵ月分の医療費の自己負担額が一定額を超えると高度療養費制度を受けられます。
子宮外妊娠は、子宮内膜ではなく他の部位で受精卵が着床することで起こる妊娠です。子宮外妊娠が起こると、妊娠の進行とともに、妊婦さんの命にも影響が出る危険性があります。
妊娠中の方で不正出血や腹痛がみられる人や、妊娠の自覚がない方でも、記事内で紹介した症状がみられる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
参考:
異所性妊娠
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